壺齋散人の 映画探検
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女だけの都(La Kermesse héroïque):ジャック・フェデーの映画



ジャック・フェデー(Jacques Feyder)の映画「女だけの都(La Kermesse héroïque)」は、17世紀初め頃の80年戦争時代における、南フランドル(ベルギー)を舞台にした物語である。80年戦争というのは、フランドルがスペインからの独立を求めて起こした戦争であり、1568年から1648年までの80年間にわたって続いた。この戦争の結果、フランドル北部は独立を勝ち取ってオランダとなるが、南部フランドルの独立は、19世紀まで実現しなかった。この映画は、戦争が一時休戦状態にあった1616年のフランドル南部の小都市ボームが舞台ということになっている。

この映画の中には、ジャン・ブリューゲル(ネーデルラント風にいえばヤン・ブリューゲル)という若い画家が出て来るが、この画家はあの有名なピーテル・ブリューゲルの孫である。ピーテルのほうは、80年戦争の引き金となったスペイン軍によるフランドル攻撃を目撃し、その有様を「ベツレヘムの嬰児虐殺」という絵の中で表現している。これは、聖書の中のヘロデによる嬰児虐殺の伝説にことよせて、スペイン軍による残虐行為を描いたものである。これに対して、映画の中のジャン・ブリューゲルは、ボーム市の市長以下幹部の肖像画を描くということになっている。

映画は、グスマン公爵に率いられたスペインの軍隊が、ボーム市に一夜滞在を求めることから始める。停戦中とはいえ、スペイン軍の残虐さが頭にこびりついている市の幹部たちは、どう対応してよいかわからなくなって、パニックに陥る。そこで、腰が抜けた男たちにかわって、市長夫人を中心に、女たちが立ち上る。彼女たちは、市の行政を代表する責任者としてスペイン軍を招き入れ、手厚いもてなしをすることで、スペイン兵たちの獰猛さをいくぶんでも和らげ、町をスペイン軍の暴虐から守ろうとするのである。

スペイン軍は、統制のとれた軍隊として描かれている。指揮官のグスマン公爵は紳士である。公爵は、市長の家に滞在し、市長夫人から心のこもった接待を受けて満足する。部下たちも、行儀こそ良いとはいえないが、みな基本的には善人として描かれている。そんな善人たちを前に、男たちは恐怖に駆られて逃げ惑うばかりであるのに、女たちは体を張ってもてなすことで、町を守ろうとするのだ。

スペイン軍の滞在した夜には、派手なお祭りが催されて、町中が大騒ぎになる。スペイン兵と町の女たちが、入り乱れて踊り、歌い騒ぐのだ。その様子を映し出したシーンが、ちょうどブリューゲルの描いた絵を連想させる。ブリューゲルの絵の中の男女と同じような格好をした人々が、御馳走を食ったり、踊りまわったりする。その様子を見ると、ジャック・フェデーは、その場面を、「農民の結婚式」や「農民の野外の踊り」などの、ブリューゲルの絵を再現したものにしようと、意識的に努めているのがわかる。

スペイン軍滞在の騒ぎの中で、亭主にあきあきした女房が若いスペイン兵を誘惑したり、市長を始めとした男たちがマヌケぶりを演じたり、そのマヌケぶりに付け込んだ道化が一儲けをしたり、また、若いブリューゲルと市長の娘との恋愛が進んだりする。市長は娘を助役に嫁がせるつもりでいたのだが、夫人が公爵の権威を利用して、娘と画家を結婚させてしまうという一幕もある。

こんなわけで、この映画にはたいした筋はないが、楽しさはいっぱいだ。ともあれ、女たちたちの機転のおかげで、町は大した混乱に見舞われることなく、スペイン軍を送り出す。その後には、再びもとの活気が町に訪れる。すると市長夫人はじめ女たちは、自分たちの役目は終わったとばかり、行政の実権を男たちに引き継ぐ、というような内容である。

この映画は、市長夫人を演じたフランソワーズ・ロゼー(Françoise Rosay)の独檀場といってよいほど、彼女の活躍ぶりが際立っている。その彼女が夫に代って臨時市長となり、スペイン軍を相手に堂々たる交渉をする。この映画を見ると、ベルギー人は昔から女上位の民族なのだと思わせられる。

ジャック・フェデーはベルギー人である。その彼が、こんな映画を作ったわけだから、ベルギーが女上位のお国柄であるというには、十分な根拠があるのかもしれない。

なお舞台となったボームという町は、アントワープとブリュッセルのほぼ中間に位置する小さな都市で、アントワープに流れこむ川の上流にある。映画のなかでは、その川も情緒たっぷりに写しだされている。

原題の La Kermesse héroïque は、「英雄的な祭り」という意味。女たちがスペイン軍をもてなすブリューゲル風のお祭り騒ぎのことを示しているようだ。





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