壺齋散人の 映画探検
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鉄路の戦い(La Bataille du Rail):ルネ・クレマン



フランス映画は、第二次世界大戦について、あまり取り上げることがなかった。ろくな記憶がなかったからかもしれない。その点は、映画界がこぞって太平洋戦争を取り上げた日本とはかなり事情が異なる。敗戦国である日本が戦争映画を沢山つくり、戦勝国であるフランスが、戦争をとりあげたがらない、というのは面白い現象だ。

そんなフランスの映画作家のなかで、ルネ・クレマンは例外で、いつくかの戦争関連映画を作っている。それらは戦争を正面から取り上げたものではなく、ナチスの占領に対するレジスタンスの運動とか、戦争によって人生をめちゃくちゃにされた人々の怒りといったものを描いたものだが、戦争を強く意識していることは、ほかの映画作家とは異なるクレマンの特徴だ。

「鉄路の戦い(La Bataille du Rail)」は、そんなクレマンの処女作といえるものだ。終戦直後の1945年に作られたこの映画は、鉄道労働者たちの対独レジスタンス運動をテーマにしている。フランスは、第二次大戦勃発まもなくドイツに降伏・占領され、戦争という点ではいいところがなかったわけだが、唯一そのドイツを相手にしたレジスタンス運動が、フランス人の誇りを表わしていた。だから、対独レジスタンスを描くことは、フランス人にとっては、非常に受け入れられやすかったわけだ。クレマンのこの映画は、そうしたフランス人の誇りを当てにした作品という面も持っていたわけだ。

映画は、前半で鉄道労働者たちの対独レジスタンスとしてのサボタージュ運動と、それに対するナチスの弾圧を描く。圧巻は、壁に沿って並ばされた鉄道労働者たちが、ドイツ兵によって、一人ひとり射殺されるシーンだ。こういうシーンは、ゴヤやマネといった画家が、英雄的なゲリラが侵略者によって射殺される歴史的光景を描いたこともあって、ヨーロッパ人には身にせまるものだった。とくにフランス人はそうだった。クレマンは、そういうフランス人の意識に訴えるようなシーンを効果的にはさんだのだと思う。フランス人の愛国心に訴えるには、これに増したものはないだろう。

映画は、連合軍のノルマンディー上陸を境にして、後半に移る。後半では、ドイツ軍の軍事物資を前線に運ぶ計画に対して鉄道労働者たちが妨害を行う様子が描かれる。今度は、サボタージュというような、なまやさしいものではなく、軍需物資の運搬を阻む為の破壊活動がテーマになる。破戒活動であるから、当然敵からの攻撃を覚悟せねばならない。場合によっては戦闘にも発展する。実際映画の後半では、そうした戦闘行為までが描かれ、多くの鉄道労働者が命を落とす。しかし、彼らの英雄的な行為のおかげで、ドイツ軍の兵站が破壊され、幾分なりとも連合軍の勝利に貢献できることができた、という誇り高いメッセージがこの映画からは伝わってくる。

この映画は、フランス国鉄労働組合の意向で作られたという経緯があるそうだ。フランスの鉄道労働者たちが、祖国の解放のために命をかけて戦った、そういうメッセージを歴史に残したかったのだと思う。実際この映画は、フランスのレジスタンス運動を象徴するものとして、フランス人の歴史意識に刻み込まれたようである。




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