壺齋散人の 映画探検
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ロープ( Rope ):アルフレッド・ヒッチコック



アルフレッド・ヒッチコック( Alfred Hitchcock )の映画「ロープ( Rope )」は、色々な点で映画作りの常識を破るような作品である。まず、構成が型破りだ。作品全体が、ワンシーン・ワンカットでできている。舞台はマンションの一室で、そこに複数の登場人物が出てきて、様々な会話を交わすという設定だ。まるで、一幕ものの舞台を見ているような感じなのだ。舞台と違うところは、適度にカメラアングルを変えたり、クローズアップを挟んだりして画面にある程度の変化をもたらしているところだが、それにしても、普通の映画とは全く違うイメージでできている。

また、これはミステリー映画なのだが、普通のミステリー映画とは大分異なっている。映画の最初の所で殺人事件が起こる。その事件を別の登場人物が暴いていく、というようなストーリーだ。こうしたストーリー自体は、たとえば「刑事コロンボ」ものなどにも見られ、いまでは、ミステリー映画としては珍しくないのだが、この映画が作られた当時には奇想天外に映ったに違いない。

この映画のテーマは、殺人事件だが、普通殺人には動機があるものだ。ところがこの映画には、その動機が見当たらない。犯人は二人いて、彼らが共通の友人をロープで絞殺するのだが、何故その友達を殺したのか、動機が釈然としないのだ。二人の犯人のうちのリーダー格は、一応動機らしいことを言う。それは、強者には弱者を殺す権利があるという理屈だ。普通は、こんな理屈から人を殺す人間はいない。ところがこの映画の中の犯人は、この、理屈にもならぬ理屈を唯一の動機として、平然と友人を絞め殺すということになっている。

以上のようなわけで、この映画は、非常に変った映画なのである。

舞台は、上述したように、高僧マンションの一室だ。そこで、二人の男、ブランドン(ジョン・ドール John Dall )とフィリップ(ファーリー・グレンジャー Farley Granger )が一人の男の首をロープで絞めて殺害する。彼らはその死体を収納箱の中に入れた後、この部屋でパーティを催す。実は、このパーティは最初から予定されていて、何人かの人々が招待されていたのだ。殺された男も招待客の一人で、犯人たちとはハーバードの同級生だったということになっている。その友人を殺した二人が、他の客を何気ない顔で招待し、パーティを始める。客には、別の友人の外、殺された男の親や、ハーバードの舎監などもいる。

客たちは、招かれた客の一人がいないことを、最初は軽く受け取っていたが、この男がめったに約束を破る事のない男なので、やがて変だと思うようになる。父親が一番心配になるのは当然のこととして、舎監のルパート(ジェームズ・スチュワート James Stewart )も、そこに何かあると疑うようになる。というのも、犯人の二人の言動がどうも変なのだ。彼らには落ちつきがなく、ちょっとしたことで怒り散らす。また、強い者には弱い者を殺す権利があるなどと、異様な発言もする。そうした異様な発言を、舎監のルパートも最初は支持しているような様子を見せるが、やがてその異様さが度を超えているので、反発を感じたりもする。

そのうち、決定的な瞬間がやってくる。パーティが終り、帰ろうとして、家政婦から帽子を手渡されたルパートが、その帽子が殺された男のものだと気づくのだ。この帽子があるということは、件の男がこの部屋にやって来たということを意味する。もしかしたら、まだこの部屋にいるのかもしれない。生死は別のこととして。

このように考えたルパートは、一芝居打つことにする。一旦外へ出た後、理屈をつけて再び戻ってきて、二人を追求しようというのだ。こうして、舞台は山場を迎える。ルパートは、二人を前に、自分の推理を開陳する。二人はその推理が概ねあたっていることに驚きながら聞いている。そして、ルパートが自分たちにとって危険な存在だと思い始め、ルパートを銃で殺そうともする。実際ルパートは殺されかかるのだが、そこは超人的な力を発揮して乗り越えるばかりか、遺体を収容した箱の中の暴露にも成功する。

その上でルパートは、二人に向って説教する。どんな人間にも、他の人間を殺す権利はないのだと。そこは舎監だけのことがあって、ルパートの説教は結構リアリティを感じさせるのだ。

以上のストーリーが、たった一つの場面設定の中で、80分かけて演じられる。とにかく変わった映画だと言えよう。

ルパートを演じたジェームズ・スチュアートは、斜に構えたインテリの雰囲気がよく出ていた。ジェームズ・スチュアートと言えば、アメリカの良心を体現した俳優などとよく言われるが、この映画の中では、ちょっと変わったインテリを上手に演じている。どことなく定まらない視線とか、ぎごちなさを感じさせる動作とか、独特の雰囲気がある。ヒッチコックは彼が気に入ったと見えて、この後も引き続き、合計四本の作品に使っている。





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