壺齋散人の 映画探検
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昭和残侠伝唐獅子牡丹:佐伯清



「昭和残侠伝唐獅子牡丹」は「昭和残侠伝」シリーズの第二作であるが、筋の上では、一作目と二作目とは何の関係もない。高倉健演じる主人公の名も、映画が展開する舞台も違う。こちらは、昭和初期の地方都市宇都宮の石切場が舞台となっている。このように話の細かい要素には違いがあるのだが、話の骨格は非常に似ている。どちらも、落ち目のやくざと新興のやくざの抗争を描いていること、新興のやくざのえげつないやり方に、落ち目のやくざのヒーローが堪忍袋の緒を切らし、単身相手の懐に乗り込んだかと思うと、超人的な能力を発揮して悪人どもを退治するという話だ。落ち目のやくざのほうには、一宿一飯の恩義を感じる客人やくざがいて、それが加勢するというのも同じだ。一つ違うのは、もっともこれは映画にとっては重大な違いなのだが、高倉健演じるヒーローが、一作目では落ち目のやくざの指導者だったのに対して、こちらの映画では客人になっていることだ。一作目で池部良の演じていた役柄を高倉健が受け持ち、その高倉健が一作目で演じていた役柄を池部良が演じているというわけだ。

高倉健は、はじめは新興やくざ左右田組の客人だったのだが、弟分のことをめぐって左右田組の親分(水島道太郎)に借りができ、対抗組織たる榊組の親分(菅原謙二)を殺すように指示される。高倉健は義理にからまれてその通り相手の親分を殺すのだが、その親分がなかなかの人格者であることを知って、自分のした行為を後悔する。三年後に出所してきた高倉健は、宇都宮に戻り、榊組の親分の未亡人に謝ろうとする。ところが、なかなかその機会をつかめないでいるうちに、榊組が左右田組からいろいろ嫌がらせにあうところを見て、次第に怒りが高まってくるのを覚える。

榊組に、放浪中だった兄貴分(池部良)が戻ってくる。池部良は、高倉健が親分を殺したことを知り、決闘を申し入れるが、親分の未亡人である姉さん(三田佳子)に制止されて勝負をあずける。そのうち、左右田組の嫌がらせが限度を越えるに至り、榊組に強い義理を感じる高倉健が、単身ドスを抱えて相手の懐に飛び込む決心をする。するとそこへ池部良も加わり、二人で相手に殴り込みをかける。ここは第一作目と同じパターンだ。池部良が不覚をとって殺されるところも同じである。違うのは、殴りこみに当たって、一作目ではトラックを相手の玄関に突っ込ませるのに対して、こちらは手榴弾を投げつけ爆発させるところである。いずれにしても、喧嘩の立ち回りは派手に脚色されている。

水島道太郎演じる振興やくざの親分は、一作目のときよりも矮小化されて描かれている。一作目と、その元となったと思われる日本侠客伝の新興やくざの親分は、悪党といいながらそれなりに頭のきく男として描かれていた。ただの暴力組織ではなく、立派な経済組織を率いる近代的な経営者としての側面を持たされていた。ところが、この映画のなかの水島道太郎は、ただただ利権にさとい意地汚い男として描かれている。この辺は、第一作目と比べれば興ざめなところかもしれない。どうせ悪党を見せるなら、スケールの大きな悪党のほうが、見せるほうも、見せられるほうも気持ちがいいに違いない。

水島道太郎の演じるやくざが意地汚いチンピラなのに対し、榊組と仕事上のつながりを持つ石材事業者(芦田伸介)のほうは、堅気ながら、ずっと義理堅い人物として描かれている。彼は、左右田組のえげつなさを怒る一方、昔から付合いのある榊組に、なにくれとなく便宜を払ってやるのだ。こうした義理堅い人物は、第一作目にも、その原型の日本侠客伝にも出ていた。人間同士の義理を通したつながりというテーマは、日本人には受けるのである。

映画の舞台となった石切り場は、宇都宮近くにある大谷石の石切り場らしい。小さな丘全体が大谷石から出来ていて、それを人間が手堀りするのである。その労役をやくざの組が請け負って、それがやくざの渡世のための収入源となっているわけだ。その収入源を奪おうとして、新興のやくざが古いやくざに挑むというところが、この映画の中のやくざ同士の抗争のもととなっている。

この映画を見て感じるのは、採石というごく普通の産業にも、やくざが深くかかわっていたという、日本経済の特殊なあり方だ。現実は違うのかもしれないが、映画のなかでは、榊組はやくざ組織というよりも、町の中小企業といった感じだ。そうした中小企業が、従業員同士の間にある種の友情をはぐくむことから、やくざ特有の人間関係が生まれてくる。だから、やくざというのは、日本人にとってはマイナス効果だけのものではなく、実体経済を動かす上でのプラスの効果も持っており、その点、日本社会の特徴をよく反映したものだというふうに、この映画からは思わされるところがある。





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