壺齋散人の 映画探検 |
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高倉健さんの主演映画「あなたへ」を見た。以前から高倉健さんのファンだった筆者は、数年ぶりに健さんの主演映画が公開されるとあって、何を差し置いてもと、公開初日(8月25日)に映画館に足を運んだのだった。 妻に先立たれた老年の男が、妻からのメッセージを受け取る。そのメッセージは、妻がまだ生きている間に、遺言執行のエージェントに託していたものだった。メッセージは2通あった。一通ははがきに記され、それには故郷の海を描いた水彩画に添えて、「私の遺骨は故郷の海に蒔いて下さい」と書かれてあった。もう一通は、故郷である長崎県の平戸の郵便局で受け取る手配がなされていた。 こうして妻をなくした老人は、妻の遺骨を納めた壺を携え、妻の故郷である平戸を目指して、キャンピングカーを運転して富山を旅立った。 映画は、その旅の途中で出会った人々との心の触れ合いと、遂にたどり着いた平戸の漁村での思いがけない人々との交流、そして妻から届けられたもう一通の遺言のことを淡々と物語っていた。その遺言とは、やはりはがきに書かれてあった。それは「さようなら」というごく短い言葉だった。 老人は実は、妻の遺言のとおり遺骨を海に蒔くべきかどうか、悩み続けていた。しかし、これらの簡単なメッセージの中に、妻の固い意思が込められているのだと確信し、ついに遺骨を海に蒔く決断をする。 以上、映画の筋はごく単純なものだ。妻を失った老人が、妻の遺言に従って、その遺骨を彼女の故郷の海に蒔くというだけの話だ。主演の高倉健さんは、映画の中でも無口で、筋書きを複雑にするようなことは何もいわない。ただ妻の本意を確かめるために黙々と前へ進むだけだ。 しかしそんな健さんを、周りの人々が放っておかないのだ。様々な人々が健さんの周りに現れて、健さんとの触れ合いの中で、心の交流をする。その交流が何とも味わい深く、映画を見ている者の心まで暖めてくれるのだ。 クライマックスは、地元の漁師の船で沖合に出た健さんが、骨壺のなかから遺骨を一握りずつ取り出して、海水の中に静に蒔いていくシーンだ。水の中で小さな骨の粒が、真珠のように光る場面が美しかった。人間の骨はこうして、海の砂に溶けこんでいくのだ。 この映画は、高倉健さんという俳優の、人間的な魅力が存分に発揮されている作品だと思う。その健さんは、もう81歳になるのだという。(映像は公式HPから) |
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