壺齋散人の 映画探検 |
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2008年のアルゼンチン映画「ルイーサ(Luisa ゴンサロ・カルサーダ監督)」は、孤独な初老の女の悲惨な暮らしぶりを描いた作品。ブエノス・アイレスの地下鉄を舞台に、押し売りや乞食のまねをしながら、必死に生きようとする老女の姿が印象的な作品だ。こういう映画を見せられると、アルゼンチンは厳しい格差社会であり、白人といえども、いったん転落するとなかなか浮かび上がることができない過酷な社会だと思わせられる。 猫と一緒にブエノス・アイレスのアパートで暮らしながら、霊園管理の仕事とメードの仕事をかけもって生活している初老の女が主人公だ。その猫が死んでしまい、また、二つの仕事もクビになってしまった老女は、とりあえず猫の葬式をやりたいと思うのだが、金がない。雇い主たちは、退職金をくれないばかりか、給料まで未払いだったのだ。そこで老女は、金をかせぐためにさまざまな苦労をする。とはいえ、彼女は長い間職場とアパートとの間をバスで往復するだけの生活になれ、都会で生きるために必要な知識を持ち合わせていないのだった。何しろ地下鉄の乗り方も知らないのだ。だが、なんとか努力して、町の中を一人で歩けるようになると、手っ取り早く金を稼げる道をさぐる。最初は、地下鉄の社内でカードを押し売りする仕事をするが、これが全くうまくいかない。誰からも相手にしてもらえないのだ。 そのうち、地下鉄駅のホームで乞食の様子をうかがっていると、結構いい稼ぎをしているのに気づく。アルゼンチンの市民は、押し売りには冷たくても、身体に障害のある乞食には慈悲深いようなのだ。そこで老女は、その乞食のいた場所を横取りし、自分が布施をもらうようにすると、結構実入りがよいのに満足する。前にいた乞食が抗議すると、ではコンビを込んで一緒に仕事をしようと持ちかける。男のほうは脚がないことを売り物にしているので、老女は盲目を売りものにすることを考える。 かくして夫婦を装った二人は、なんとか二人仲良く生きていく道を見つけるというような内容だ。小銭ができた老女は、長い間冷凍庫に保存していた猫の遺体を焼却し、その灰を、自分の夫と子供の墓の傍らに埋めてやるのだ。 こんなわけで、アルゼンチン社会が弱者にとって生きにくい社会であることを徹底的に皮肉っている。この映画は、ブエノス・アイレスの地下鉄会社が事業PRのために実施したキャンペーン事業に応募した脚本を映画化したものだ。地下鉄会社としては、地下鉄が弱者のために役立っているよう描かれていることに満悦したのかもしれない。 |
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