壺齋散人の 映画探検 |
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2009年のアルゼンチン映画「瞳の奥の秘密(El secreto de sus ojos フアン・ホセ・カンパネラ監督)」は、殺人事件の犯人を捜すサスペンス映画。とはいえ、実際の時間に沿ったものではなく、ある人物の回想と絡み合った話に仕立ててある。サスペンスの進行に、過去のシーンがフラッシュバックされて回想されるのである。 裁判所を定年退職した元下級判事エスポシトが主人公。かれは25年前にある殺人事件を担当したのだが、その事件を小説に書きたいと思っている。そしてその計画を元上司に持ち掛ける。女性判事である元上司イレーネを執筆計画に巻き込むことで、過去に起きた殺人事件の真相を明らかにしたいと思っているのだ。その殺人事件というのは、若い女性が自室で強姦されたうえ、無残に殺されたというもの。その事件の容疑者二人を警察が割り出すが、エスポシトは一目で、でっち上げだと見抜く。どうもアルゼンチンの警察は、自分らの仕事をうまくみせるために、無実の人間に罪をなすりつける体質があるらしい。 エスポシトは同僚のパブロと組んで事件の解明に乗り出し、犯人のめぼしをつける。そして被害者の同郷人だという若い男ゴメスに狙いをつける。古い写真に被害者と一緒に写っているゴメスは常に被害者を見つめている。そこからかれらは、ゴメスの欲情が殺害の動因だろうと見当をつけるのだ。がむしゃらになってゴメスを捕まえるが、逮捕の決め手がなく釈放せざるを得なくなる。ゴメスの背後には、不気味な力が働いているらしい。というのも、同僚のパブロが何者かに殺されるからだ。パブロはどうやらエスポシトの身代わりになったようである。 こうして事件は迷宮入りした。なぜそんなことになったのか、エスポシトは改めてこの事件を追い、それを小説に書きたいというのだ。それにイレーネが協力する。エスポシトは、被害者の夫モラレスにも連絡をとる。モラレスがこの事件に異常なかかわりをみせ、犯人を見つけたいという執念に燃えていたからだ。ところが会ってみると、過去のことは忘れたほうが良いと、意外なことをいう。あの事件はもう片付いたというのだ。エスポシトが不審に思うと、実はゴメスは、モラレスによって監禁されていたのだ。モラレスはかつてエスポシトに向かって、犯人を終身刑に服させたいと語っていた。その思いを自分が実行したというのだ。無能な司法当局に期待できないのであれば、自分が自ら実行せざるをえないというのである。アルゼンチンでは、正義は自力で実現することが必要だ、というわけだ。 そんなわけで、単なるサスペンス映画ではなく、アルゼンチンの腐敗した司法機関を強烈に批判した作品である。 |
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