壺齋散人の 映画探検 |
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アキ・カウリスマキは、フィンランド映画を一躍国際的なレベルに引き上げた監督である。1986年の作品「パラダイスの夕暮れ」が国際的な注目を集め、1990年には「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」が世界中で大ヒットした。その後、2002年には「過去のない男」がカンヌでグランプリをとっている。そんなカウリスマキの活躍に刺激される形で、フィンランドの映画市場は活気を呈した。 カウリスマキの作風は、フィンランド社会の抱える矛盾に正面から向き合い、それらを批判的な視点から描き出すことである。それでありながら、プロパガンダ性は全く感じさせない。これがフィンランド社会のありのままの現実なのだという主張が、淡々と伝わってくるように作っている。 そんなわけで、カウリスマキの映画には、格差社会の負け組みというべき人物が多数登場する。それは食肉処理場で働く労働者だったり、マッチ工場の女工であったり、仕立屋の手伝いだったり、市電の運転手だったりする。世上プロレタリアと呼ばれるような人々だ。カウリスマキにはそうしたプロレタリアを描いた作品が多い。「パラダイスの夕暮れ」などプロレタリア三部作と呼ばれるような作品群もある。 また、晩年には、難民をテーマにした映画も作っている。難民には国際的な負け組が多い。要するにカウリスマキの映画には、負け組ばかりが出てくるのである。 ところで、フィンランドは北欧諸国の一郭を占める国だ。北欧諸国といえば、充実した社会保障のイメージが強い。フィンランドも一時は手厚い社会保障の行き届いた国だったという。それが、この映画の中のフィンランド社会は、貧困が蔓延した格差社会になっている。これは、フィンランドを含めた北欧諸国が、EUの影響で新自由主義を取り入れた結果だと思われる。世界一社会保障の行き届いた国といわれたスウェーデンでさえ、最近は格差にさいなまれ、貧困が蔓延した社会にさまがわりしているようだ。少なくとも、近年の映画からはそのように伝わってくる。 カウリスマキの映画から伝わってくるものとして、もう一つ印象深いのは、治安の悪さだ。どの映画でも、暴力を振るう人間が出てくる。そんな映像を見せられると、フィンランドという国は、ちょっと油断すると悪いやつらの餌食になってしまうひどい国だという印象を受ける。なけなしの金を、チンピラの集団に奪われたり、妻を悪いやつによって売春組織に売り払われたり、とにかくひどい行為が日常的に起きている。暴力の犠牲者は、いわゆる負け組だ。負け組のなかには外国からやってきたものもいる。むしろそういう人間が暴力の標的になりゃすい。人種に基づく暴力は、アメリカでは昔からあったが、フィンランドではどうなのか。考えさせられてしまう。 フィンランドは、人口600万人に満たない小国である。にもかかわらず、国としてのパフォーマンスはなかなかのものだ。それは、移民の力にも支えられているのだと思う。その移民に対して不寛容では、国の未来は明るくないのでは、と思わされる。フィンランドを舞台にした映画のなかには、「世界に一番幸せな食堂」のように、東洋人に対しても寛容な社会の様子を描いたものもあるが、カウリスマキの映画では、外国人は貧乏人とならんで迫害の対象になっているばかりだ。 カウリスマキには、「ラ・ヴィ・ド・ボエーム」のようなフランス語の作品とか、「レニングラード・カウボーイズ」のような英語の作品がある。フィンランド語圏は市場が小さすぎるので、興行的には外国語で作った方が実入りがいいからだろう。なお、フィンランドとエストニアが、同じ言語を共有しているということを、小生はカウリスマキの映画を通じて知った。フィンランドとエストニアは、もともと地理上も連続していたが、ピョートル大帝がペテルブルグを建設したことにともない、分断されたということらしい。 ここではそんなカウリスマキの代表作を取り上げ、鑑賞のうえ適宜解説・批評を加えたい。 罪と罰 アキ・カウリスマキの処女作 アキ・カウリスマキ「パラダイスの夕暮れ」 フィンランドの下層社会に属する男女 アキ・カウリスマキ「真夜中の虹」 フィンランドの下層社会に生きる人間 アキ・カウリスマキ「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」 フィンランドのバンドアメリカを行く アキ・カウリスマキ「マッチ工場の少女」 若い女性の復讐 アキ・カウリスマキ「コントラクトキラー」 自分を殺すために殺し屋を雇う アキ・カウリスマキ「ラ・ヴィ・ド・ボエーム」 三人の男たちの友情 アキ・カウリスマキ「愛しのタチアナ」 二組の男女の奇妙な旅 アキ・カウリスマキ「浮き雲」 中年夫婦の失業 アキ・カウリスマキ「白い花びら」 妻を奪われる男の悲哀 アキ・カウリスマキ「過去のない男」:記憶喪失者の恋 アキ・カウリスマキ「街のあかり」 悪党に食い物にされるみじめな男 アキ・カウリスアキ「ル・アーヴルの靴磨き」 アフリカ難民を助けるフランスの老人 アキ・カウリスマキ「希望のかなた」:フィンランドの難民問題 アキ・カウリスマキ「トータル・バラライカ・ショー」 レニングラード・カウボーイズとロシア合唱団のジョイントコンサートの記録 |
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