壺齋散人の 映画探検 |
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アキ・カウリスマキの2011年の映画「ル・アーヴルの靴磨き(Le Havre)は、「ラ・ヴィ・ド・ボエーム」同様フランスで作った映画である。カティ・オウティネン以外は、出演者はすべてフランス人だし、言葉もフランス語である。テーマは難民問題。アフリカのガボンから密航してきた家族の中の少年が一人だけ脱走する。その少年を、靴磨きで暮らしているフランス人の老年の男が助ける。それに感心した警察官も、自分のできる範囲で協力するといった内容だ。カウリスマキは、フィンランドを舞台にした映画では、人間の暴力的な面ばかり強調する傾向があるが、フランスを舞台にするとヒューマニズムを前面に押し出すから面白い。 アンドレ・ウィルム演じる老人は、ベトナム人と一緒に靴磨きをやっている。だいたい地下鉄駅の中が主な場所だが、時には街中の店先でやる場合もある。すると店員から追い払われたりする。それでもめげずに靴磨きの仕事に励む。そんな折に、一人の黒人少年と出会う。少年がガボンからやってきた難民だと知った老人は何かと少年の面倒を見る。そんな老人を、妻や近所の連中が励ます。老人は、少年の家族に会いにカレーの難民キャンプに出掛けていく。そこで少年の祖父にあい、少年の母親がロンドンにいるから、ぜひ合せてほしいといわれる。老人はそうするよう約束する。その約束を果たし、少年は密航船に乗ってロンドンをめざす。 その少年が、アフリカ育ちにかかわらずフランス語を話す。ガボンはフランスとかかわりが深いらしく、上層のガボン人はフランス語を話すようだ。だから老人はその少年と色々な話をすることができる。老人が少年を助けたいと思うのは、おそらく哲学的な理由によるのだろう。この老人は実に思弁的で、まるで老いたるサルトルを見るような気にさせるのである。 サブ・プロットとして老人の妻が重病にかかり、医師からは余命いくばくもないと言われながら、奇跡的になおるという話が繰り込まれる。また老人の応援団のような人々が出てきて、ことによせて老人を支える。警察官でさえ、老人の味方になる。そんなわけでこの映画は、フランス庶民の助け合いのようなものをテーマにしているともいえる。そういう場面を見せられると、ルネ・クレールの映画を想起させられる。クレールはパリの下町の人間的な触れ合いを好んで描いた。カウリスマキがそんなクレールに影響されたというのは大いにありうることだ。 |
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