壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館美術批評東京を描く水彩画動物写真西洋哲学 プロフィール掲示板



リチャードを探して アル・パチーノの監督デビュー作



アル・パチーノの1996年の映画「リチャードを探して(Looking for Richard)」は、パチーノの監督デビュー作。ドラマではない。シェイクスピアの歴史劇「リチャード三世」の映画化をめぐるドキュメンタリータッチの作品である。パチーノが仲間の俳優とともに、「リチャード三世」の映画化を行う。キャスティングから脚色まで、数人の親友と相談しながら撮影を続ける。映画はその様子を追っていくという構成をとっている。

パチーノ自身がリチャード三世を演じ、イングランド王エドワード、王妃エリザベス、クラレンス公、リッチモンド伯、レディ・アンなど主要な役柄を親友らが務める。映画は共同で脚本を練り上げながら、主要な場面を映し出す。リチャードがアンの愛を勝ち取る場面、クラレンスを殺害する場面、エドワードが死ぬ場面、エドワードの王子たちをさしおいてリチャードが王冠をかぶる場面、そしてリッチモンドの叛乱に直面して孤立し、殺される場面。その場面でリチャードは馬をよこせと叫ぶ。このセリフは、どうしても言いたいとパチーノがこだわったものだ。

女たちが集まってリチャードを呪う場面は出てこない。小生はこの場面こそ「リチャード三世」最大の見せ場だと思っているが、パチーノはそうではなく、「馬をよこせ」のほうにこだわった。殺され方もリチャードに相応しい劇的なシーンに仕上げた。

「リチャード三世」は、イギリスでは「ハムレット」より多く上演され、シェイクスピアの代表作と受けとられている。しかしアメリカではあまり人気がない。というより、アメリカ人はシェイクスピアをあまり好まないのだ。シェイクスピア劇を楽しむには、一定の教養が必要である。その教養がアメリカにはない、とパチーノは言いたいようである。パチーノのいうアメリカ人とは、無論白人のことだが、イコール・アングロサクソンではない。いろんな白人が混ぜ合わさった人工的な民族である。パチーノ自身はイタリア系である。そんなアメリカ人が、アングロサクソンの粋ともいえるシェイクスピアをあまり好まないのも仕方がないかもしれぬ。




HOME シェイクスピア劇









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2021
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである