壺齋散人の 映画探検
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チャップリンの移民:アメリカへやってきた移民たち



1917年の短編映画チャップリンの移民(The Immigrant)」は、ヨーロッパからアメリカへ来た移民をテーマにしたものだ。この時代のアメリカは、労働者不足を補うために大量の移民を受け入れていたし、ヨーロッパには仕事にあぶれた人々にこと欠かなかったので、需給がマッチして、大量の移民がヨーロッパからアメリカへと流れた。アメリカを目指した人々は、そこに希望の大地を夢想したわけだが、多くの場合それは幻想に過ぎなかった。アメリカに渡った人々には苦い現実が待っていた、というのがこの映画の描くところである。とはいっても、苦い現実を告発調で描くわけではない。一部の諦めと一部のペーソスをまじえて、いわばほろ苦く描くのである。

映画は大きく前後二つの場面からなっている。前半はアメリカに向かう船の中の様子で、大勢の移民たちが船酔いに苦しみながらたくましく生きているところが描かれる。彼らは船酔いで動き回ることもままならないのに、食事だけは忘れない。空腹を抱えたままでは、未来を無事迎えることが出来ないからだ。チャップリンも、船の揺れでアクロバティックに動きながら、食卓へはいの一番にかけつけるのだ。

そんなチャップリンが博打で一儲けするのだが、すりに有り金を取られた母子に同情してその金を与えてしまう。やがてアメリカに船が到着すると、彼らは移民事務所で尋問を受けた上で、晴れてアメリカの地を踏むのだ。

後半は一文無しになったチャップリンが、路上で拾った金貨で食事しようとレストランに入るシーンだ。そこでチャップリンは、船の中で出会った娘に再会する。娘のほうも一文無しのようだ。そこでチャップリンは、娘にも食事をおごろうとするのだが、拾ったと思っていた金貨がない。ズボンのポケットの穴から落ちてしまったようなのだ。

だがチャップリンはあきらめない。隣のテーブルの男がボーイに渡したチップが床の上に落ちたのを見て、それを拾い上げて食事代にしようと考えるのだ。一汗かいてなんとかコインを拾い上げたが、どうもそれでは食事代にはならない。どうしようかと気を揉んでいると、親切な男が現れて、食事をおごってくれる。そのうえこの男はチャップリンに仕事をくれようというのだ。

未来に希望が見えたチャップリンは、雨の中だと言うのに喜び勇んで通りに飛び出すと、女性とともに結婚登記所に駆け込むのである。

見所は二つある。一つは、船のなかで揺れる体の平衡を取ろうとして、チャップリンが脚を交互に持ち上げるシーンだ。船が右に傾くと左脚を高く上げ、左に傾くと右足を高く上げてバランスを取ろうとするのだが、揺れがあまり激しいとそんな動作は役に立たない。チャップリンはひっくり返ったあげく、フライパンのうえのソーセージのようにかき回されるという次第なのだ。

もう一つは、後半のレストランの場面で、大男のボーイを相手に、一連の仕草をするシーンだ。大男相手にドタバタシーンを展開するところは「チャップリンの勇敢」のなかのガス灯の場面を思わせる。



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