壺齋散人の 映画探検
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サム・ペキンパー「バイオレント・サタデー」:CIAの謀略活動



サム・ペキンパーの1983年の映画「バイオレント・サタデー(The Osterman Weekend)」は、かれにとって遺作となった作品。テーマはCIAの謀略活動。CIAはアメリカ政府の諜報機関として、巨大な規模を持った組織であり、活発な活動をしている、もっとも重要なのは、対外情報活動であり、アメリカの安全上必要な情報を収集する一方、アメリカにとって都合の悪い外国政権の転覆をおこなってきた。とくに中南米諸国に対する介入は有名である。この映画の中のCIAは、対ソ連活動の一環としてではあれ、アメリカ国民を対象に諜報活動を行い、まったく罪のない市民を殺す暴虐な組織として描かれている。バート・ランカスター演じるCIA長官は、自分はアメリカの利益にために仕事をしているのであり、その仕事に付随してアメリカ市民が死ぬことになっても悔いはないとうそぶく。つまり確信犯的な市民殺害者なのだ。

こんなふうに見ると、サム・ペキンパーは反体制的な意識をもった人間というふうに伝わってくる。じっさいどうだったのか、小生にはわからぬが、かれのほかの作品を含めて分析するかぎり、あまり政治的な傾向は感じられない。かれを特徴づけているのは、人間の暴力性へのこだわりである。その暴力性が、この映画のなかでも主要なモチーフとなっている。この映画のメーン・プロットとなるのは、妻を殺された男が、殺害の下手人であるCIA長官に対して復讐の鉄槌を下すということにあり、その復讐の過程で、すさまじい暴力が行使されるのである。

映画の冒頭で、自分の目の前で妻を殺された男の表情がうつされる。男は、妻を殺した下手人はCIA長官だと考える。そこで復讐をもくろむが、なにせ相手はアメリカ合衆国のCIA長官であり、簡単には近づけない。絡めてから迫る必要がある。たまたま有能なテレビ・キャスターがいて、それを自分の計画にまきこむ。かれの番組にCIA長官を引っ張り出し、インタビューと称しながら、その犯罪を暴露しようというのだ。無論そんな夢のような話に、簡単に乗るような人間はいない。そこで周到な策略をめぐらせて、キャスター以下の人間を、有無をいわさず計画に巻き込んでいく。巻き込まれた人間のなかには、当のCIA長官も含まれているのだ。

そんなわけで、かなり高度な知的な枠組みのサスペンス映画である。妻を殺された男は、希望通りCIA長官の犯罪を暴露することができたが、その見返りに、キャスターに殺される。調子に乗って、キャスターの友人たちを殺したほか、かれの妻子の命を脅かしたからだ。一方、キャスターのほうは、さんざん振り回されたあげく、自分の手で殺人まで行うはめになって、呆然とせずにはいられない。だがかれは追い詰められてそんなことをしたのであり、アメリカの巨大な権力を前にしては、ただの無力な人間にすぎないのである。アメリカという国は、いかれた人間が権力をもつと、どんなことでもまかりとおってしまうという恐ろしさをもっている。そんなふうに感じさせる映画である。




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