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オリヴァー・ストーン「7月4日に生まれて」:戦争で不具になった青年



オリヴァー・ストーンは「プラトーン」でベトナム戦争の醜悪さを描いたが、「7月4日に生まれて(Born on the Fourth of July)」は、その続編みたいなものだ。ベトナム戦争の醜悪さを引き続き描くとともに、戦争で不具になった青年の絶望を描いている。その青年は、自分は正義のためにベトナムに赴いたと思っていたのだったが、実は非人間的な行為をするはめになった挙句、不具になった後はまわりの誰からも人間として認めてもらえず、深い孤独感を覚えて絶望する。そして自分をこのような目にあわせた戦争の不正義を告発するに至る過程を描いているものだ。

7月4日とはアメリカの独立記念日だ。その記念的な日に生まれた少年ロニーは、幼い頃から愛国心が強く、また戦争ゲームが大好きだった。だから一人前の男になると、何の疑問も感じずに海兵隊に志願し、ベトナムに送られることになる。そんな息子を母親は、「神のために共産主義を阻止しなさい」と言って送り出すのだ。

正義感に燃えていたはずのロニーが、ベトナムで見たのは、地獄のような光景だった。ロニー自身がその地獄の悪魔となって、無抵抗の市民(女や子どもたち)を虐殺するばかりか、気が動転して仲間を銃で殺したりもする。その挙句、敵から銃撃されて九死に一生を得たはいいが、脊椎損傷で下半身が完全に麻痺してしまう。男性器にも重大な損傷を蒙り、性的にも不能になるのだ。

故郷に帰ったロニーは、はじめは周囲から英雄扱いされたが、そのうち次第に相手にされなくなる。一番ショックだったのは、弟から相手にされず、愛していた女性からも見放されたことだ。彼自身、自分の性的無能力を考えれば、恋人をつなぎとめておくわけにも行かないと感じる。

そんなわけでロニーは次第に自暴自棄になっていく。ロニーが一番我慢ならないのは、ベトナム戦争に反対している連中が、デモをやって、星条旗を焼いたりすることだ。自分はこの星条旗のためにベトナムで戦い、一生を棒に振ったというのに、この連中は戦争を忌避して反対を叫んでいる。許せないというわけだ。

アメリカに居場所がないと感じたロニーは、メキシコに行く。そこには廃兵になったアメリカ青年たちのたまり場があって、地元の女を抱きながら憂さ晴らしをしている。しかしインポになったロニーは、セックスで憂さをはらすこともできない。絶望感は深まるばかりだ。絶望に駆られて叫ぶロニーに向かって、周りの者は「自分から志願しといて、いまさら泣き言を言うな」といって相手にしない。

彼は戦場で誤って殺してしまった仲間の家を訪ね、その家族に自分の犯した行為を告白する。意外にも家族たちは自分を許してくれた。そんなロニーは次第に、戦争そのものに疑問を感じるようになる。自分は正義のためにベトナムに行ったと思っていたが、実はニクソンたちにだまされたのではないか、と思うようになる。ベトナムの英雄として共和党の大会に乗り込んだロニーは、そこで戦争批判の発言を繰りひろげ、共和党の連中から袋叩きにされる。しかしいまやロニーは、筋金入りの反戦主義者となっていた、というのが、この映画のおおまかな筋書きだ。反戦主義者となり、戦争反対を堂々と発言することでロニーは初めて、アメリカに居場所を持てたと感じるようになる、というわけである。

この映画は、実在の人物ロン・コーヴィックの体験談をもとに作られた。コーヴィックは、ベトナム戦争で負傷したヴェテランで、筋金入りの反戦論者として有名だった人物だ。そのコーヴィックをトム・クルーズが演じている。



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