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山本嘉次郎「エノケンの孫悟空」:前後二編からなるレビュー映画



戦前に数多く作られたエノケンのレビュー映画の中でもっとも人気をとったのは「エノケンの孫悟空」だ。エノケンが孫悟空に扮して三蔵法師とともに天竺への旅をし、その途中奇想天外な出来事に遭遇するという趣向で、アイデアは中国の小説「西遊記」から借りているが、日本人好みに脚色して、大いに喝采を博した。

この映画が公開されたのは1940年で、前後二編が作られた。どちらもフィルムが現存している。前編は、玄宗皇帝から経典輸入の使命を授かった三蔵法師が、一人旅の途上で孫悟空、猪八戒、沙悟浄をお供に加え天竺を目指す。その彼等の前に様々な化け物が現れて、彼らを窮地に追い詰めるが、孫悟空が如意棒の呪力を用いて次々と解決していくという内容からなっている。

前編のハイライトは二つ。一つは饅頭に釣られて誘拐され、今度は自分が食われそうになった猪八戒を、孫悟空と沙悟浄がゼロ戦に乗って助けにゆくところ。ゼロ戦が出てくるのは時代柄だろう。また猪八戒はトンカツにされそうになるが、この時代にはトンカツは最高のご馳走だった。

もう一つは、アラビア風の宮殿にさらわれた三蔵法師を孫悟空らが救出するところ。ここでも三蔵法師が女王から食われそうになるが、孫悟空のまじないが女王に通じず危機一髪のところを、観音さまが現れて救ってくれる。観音様は、この化け物の正体が金魚であることを孫悟空に教えてくれる。なぜ金魚なのか、それはわからない。

映画はいきなりミュージカル風の歌と踊りから始まり、全編を通じて華やかな雰囲気に包まれている。歌は日本風のもあれば中国風のもある。踊り手たちは日劇ダンシングチームだそうだ。当時日本でもっとも本格的なダンスグループだった。

全編これギャグの連続と言ったところだが、もっとも笑わせるのは、孫悟空と奇怪国の大王とが対決する場面。両者ともさまざまな姿に変身しては、相手よりも有利な立場から攻めようとする。大王が近藤勇になると孫悟空は鞍馬天狗になり、大王が金太郎になると孫悟空は桃太郎になる、また両者ともにさまざまな動物に変身して相手を圧倒しようとするが、大王がカニになったところで孫悟空が降参する。どういうわけか孫悟空はカニが苦手なのだ。そこで河童の沙悟浄が出てきてカニを退治する。というわけで、この場面は当時流行っていた児雷也・大蛇丸・綱手の三すくみのパロディになっている。

この映画は、クレジットをみればわかるとおり、豪華キャストを揃えている。女優では、李香蘭、渡辺はま子、高峰秀子、中村メイ子などが出てくることになっているが、筆者には李香蘭以外は見分けがつかなかった。



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