壺齋散人の 映画探検
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友だちのうちはどこ:アッバス・キアロスタミ



アッバス・キアロスタミの1987年の映画「友だちのうちはどこ」は、キアロスタミの出世作となった作品だが、同時に世界中にイラン映画の魅力を発信したものだった。この映画に続く三部作で、キアロスタミは世界映画界の巨匠の仲間入りを果たし、それに刺激させられる形で、多くのすぐれたイラン映画が作られるようになった。イランはいまや、世界の映画界をリードする国の一つである。

「友だちのうちはどこ」と題したこの映画は、題名にあるように、一少年が友達の家を探し回るところをテーマにしている。この少年は、それこそ全力を挙げて友達の家を探し回るのだが、かれにそれを急き立てるものはなにか。その少年は、友達の宿題帳を誤って自分の家へ持ってきてしまったのだが、それがないと、その友達は深刻な事態に陥るのだった。その友達は、今までにもたびたび宿題帳を忘れてきて、これ以上忘れたら、学校を退学させると先生から言われていた。だから、今日中にこの宿題帳を、友達に返してやる必要がある。そうその少年は思いつめて、子供らしい情熱から友達の家を探し回るというわけなのだ。

しかし少年は、なかなか家を出ることができない。母親がいろいろうるさく言うからだ。それでも母親の目を盗んで、友達の宿題賞を胸にかかえながら、家を飛び出る。しかしその友達は、隣村のポテシュに住んでいるという意外、どこに住んでいるのか詳しいことがわからない。ポテシュといっても、いくつかの区に別れていて、どの区か特定できないと、探し出すのは困難なのだ。少年はこの困難に立ち向かい、全力を挙げて探し回る。

そのうち、ポテシュ出身の同じ姓の男が、自分の村にいることを知り、その男から詳しい情報を得ようとするが、その男は少年を相手にしてくれない。自分の仕事が終わるとさっさとロバにまたがって帰ってしまう。その後ろから少年は追いかける。ロバは馬ほど機敏でないとはいえ、やはり少年より足は速い。そのロバの後を少年は全速力で追いかける。長い距離を、休みなく追いかける少年の姿を見ると、すさまじいエネルギーを感じさせられる。小生のような老人にはとてもそんなまねはできない。その小生にも無論少年時代はあったわけだが、この少年程の持久力はなかった。とにかく、忍耐強いのだ。

そうこうしているうちに、日も暮れて来る。幸い親切な老人が一緒にその家を探してくれたりするが、やはり探し当てることができない。日がとっぷりとくれて、少年は言いつけられていたパンを買う仕事を思い出すが、もうパン屋は締まっているはずだ。すっかり意気消沈した少年は、ついに探すことをあきらめて家に帰る。家では両親に叱られると思っていたが、さいわい大して叱られずにすんだ。

そこで少年が考えたことは、自分が友達の宿題帳に宿題を書いていてあげよう。明日その宿題帳を友達に渡せば、友達は先生から叱られることもなく、退学させられることもないだろう、ということだった。果たして翌日、少年は学校でその宿題帳を友達に渡し、おかげで友達は先生に叱られずにすんだ。

ただ、これだけの話だが、その単純な話が人の胸を打つ。それは、少年のひたむきさが、一人の人間としての誠実な生き方を感じさせるからだろう。こんな具合にこの映画は、倫理的な色彩を強く帯びているのだが、押しつけがましさは感じさせない。




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