壺齋散人の 映画探検
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春香伝:イム・グォンテクのパンソリ映画



春香伝あるいは春香歌は、韓国の伝統芸能パンソリの人気演目で、18世紀頃から民衆に浸透し、20世にはたびたび映画化された。2000年にイム・グォンテクが映画化したものは、もっともよく作られており、カンヌではパルム・ドールにノミネートされたくらい質の高い作品である。

位の高い士大夫の息子と、身分の卑しい妓生の娘との熱愛をテーマとする。その熱愛に、権力者が横恋慕し、その挙句、言うことを聞かない女を権力者が殺そうとする。そこへ長い間離れ離れになっていた恋人の男が現われ、恋人を救うというような内容である。

そんなわけで、若い男女の熱愛に、スケベな中年男の横恋慕がからむという筋書きだ。中年男の横恋慕とは醜悪な限りで、見るに耐えないといったところだが、我々日本人としては笑ってばかりもいられない。我々日本人にも、遠藤盛遠が袈裟御前に横恋慕した話とか、高師直が塩谷判官の妻に横恋慕した話など、スケベ男の無理筋の横恋慕には事欠かないのである。日本の場合には、思い通りにならずあせった男が相手の女を殺してしまうケースが多いようだが、この映画の場合には、若い男女は最後に結ばれるのである。

映画は、単に演目の筋書きを採用するのみならず、パンソリの雰囲気を最大限伝えるように作られている。画面はパンソリの語りにしたがって展開していき、ところどころ語り手の語る様子が映される。語り手は、専用劇場の舞台に上がって、大勢の聴衆を前にパンソリをうなるのである。語るというよりうなるといったほうが相応しいくらい、パンソリの語り方はダイナミックである。

小生は韓国の歴史に詳しいわけではないが、この映画を見る限りでは、日本の封建時代とはだいぶ異なる。日本の封建時代には、各地に小権力が割拠していたが、韓国の場合には、一応中央集権制度をとっていて、地方の統治は、中央から派遣された役人が担っていた。その役人が、それぞれ勝手放題なことをするのは、中央政権の基盤の弱さを感じさせる。また権力は民衆と断絶している。その断絶が国としての一体化を阻んだというようなメッセージが、多少は伝わってくるようである。

スケベな権力者にせまられた女が、ひどい拷問を受けながらも、自分は死んでも二夫に仕えないと言い放つ場面は迫力がある。儒教的な道徳観念が、庶民層にも浸透していたことだろうか。




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