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インド映画「ムトゥ踊るマハラジャ」:歌と踊りと勧善懲悪



インド映画「ムトゥ踊るマハラジャ」は、日本では1998年に公開され、大ヒットになった。それまでインド映画とはほとんど没交渉だった普通の日本人は、この映画を通じてインド映画がどのようなものか、その雰囲気の一端に触れて大いに好きになり、俄かインドブームが起きたほどだった。

インド映画の最大の特色は、歌と踊りをふんだんにとりいれ、単純な勧善懲悪ストーリーで人々を熱狂させることだ。そうした要素がこの映画にも100パーセント盛り込まれている。なにしろ次々と披露される歌と踊を見ているだけでハッピーな気分にさせられる。勧善懲悪の部分については、欲深の金もちを主人公が懲らしめるところで強調されている。そのさい、主人公のムトゥは、大勢のならずものたちを相手にして、それこそスーパーマン的な活躍ぶりを見せる。そのムトゥに旅の一座の歌姫が惚れるというわけである。

日本人がこの映画を気に入った理由は色々あるが、なかでも一時期流行ったチャンバラ・オペレッタ風作品に似ていたことがあげられる。チャンバラ・オペレッタとは小生が便宜的につけた名称で、勧善懲悪のストーリーに乗って、主人公たちが気持ちよさそうに歌いかつ踊るというものである。そういうタイプの映画は戦前からあり、戦後は東映時代劇を中心に大いに人気を博したものだが、それにこのインド映画はよく似ていたのである。

歌姫を演じた女優がなかなかチャーミングである。やや肥満気味といえるほど豊満な肉体なのだが、小顔なのでそれが目立たない。声も少女のようなあどけなさを感じさせる。一方、相手役のムトゥを演じた俳優は、インドでは最高レベルの人気を誇っているそうだ。かならずしもマッチョな印象を与えないのだが、喧嘩はめっぽう強い。日本の侍は刀で戦うが、インドでは素手で戦う。素手で、つまり拳骨を握って相手に見舞うのである。だからダメージは致命的ではない。戦いのシーンが騒々しさほど血なまぐささを感じさせないのは、暴力が人間的であるせいだろう。



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