壺齋散人の 映画探検
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アモス・ギタイ「フリー・ゾーン 明日が見える場所」:ユダヤ人とアラブ人の関係



アモス・ギタイの2005年の映画「フリー・ゾーン 明日が見える場所」は、イスラエルにおけるユダヤ人とアラブ人(パレスチナ人が中心)との関係をテーマにした作品。他のギタイ作品同様、この映画もユダヤ人の立場を一方的に擁護するのではなく、アラブ人の立場にも配慮し、なるべく公平に事態を描こうとする姿勢が感じられる。この映画が作られた2005年は、第二次インティファーダと呼ばれる大規模な衝突が起きた直後であり、ユダヤ人とパレスチナ人の対立が深刻化していた。そうした中で、両者の和解を促すようなメッセージが認められないこともない。

イスラエルに住むユダヤ人女性と、ユダヤ系アメリカ人女性が、イスラエルからヨルダンまでの小さな旅をするというような内容だ。その旅の中で、色々なことが起きる。それらがユダヤ人とアラブ人との関係を考えさせるというような具合になっている。

この二人は、タクシーの運転手と客という間柄であり、たまたま一緒に旅をするはめになった。タクシーの運転手は、フリー・ゾーンで商売をしている男に債権を持っており、その回収のために赴くという設定だ。その直前に運転手の夫はロケット攻撃で負傷してしまい、金の取立てを女房にゆだねたというわけだった。アメリカからのユダヤ人客は、ファンセと絶交したばかりで、心に傷を抱えている。絶交の原因は、フィアンセがアラブ人村襲撃に加わった際に、生き残っていた若い女性をレイプしたことだった。ユダヤ人はつねにアラブ人に対して圧倒的に優勢だったので、戦場ではレイプや略奪など好き勝手なことをやっていたらしいことが、このユダヤ人の作った映画から伝わってくる。

そのアメリカからの客が、放心して涙を流す様子を映すことから映画は始まる。バックミュージックが流されるが、その曲というのが、子羊を猫が殺し、猫を犬が殺し、犬を棍棒が殺し、その棍棒を云々と言う具合に、因果の連鎖を歌ったものだった。そう歌うことで、ユダヤ人とアラブ人との果てのない敵対関係を皮肉っているつもりだろう。

二人が向ったフリー・ゾーンというのは、ヨルダン、イラク、サウジアラビアの国境が交差するところで、ある種の特別区になっているところ。人々はここで自由に取引できる。それを利用して、運転手の夫はアラビア人相手にビジネスをしていたという設定だ。そのビジネスの債権を回収するために、運転手の女房はたまたま客となったアメリカ人女性を乗せて、車を走らせるのである。

結局債権はすぐには回収できない。そこで色々なことがおきる。最後には債務者にかかわりのある女を人質にとってイスラエルに向うが、その途中でもトラブルが続き、アメリカ人女性はそれにあきれ果てて、一人国境を突破し、イスラエルに向けて走るところを映しながら映画が終わるという趣向になっている。



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