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アモス・ギタイ「撤退」:ユダヤ人のガザ撤退



アモス・ギタイの2007年の映画「撤退」は、2005年にイスラエルのシャロンが行った「ガザ撤退」をテーマにした作品。この撤退作戦は、第三次中東戦争で占領したガザのユダヤ人入植地からの撤退を主な目的としていた。シャロンがなぜこの作戦に踏み切ったか、詳しい事情はわからない。シャロンは対パレスチナ強行路線で知られており、パレスチナ人に譲歩するこの作戦には動機の不明な部分が多い。もっともこの作戦後も、イスラエルのユダヤ人はたびたびガザを攻撃し、2014年にはホロコーストと呼ばれるような大虐殺事件を起している。

映画は、その撤退作戦に、ヨーロッパで暮すユダヤ人家族の生き方を絡めている。主人公の女性と、その義理の弟、かれらの死んだ父親、そしてその父親が遺産を残した孫娘である。ジュリエット・ビノシュ演じる女性は、血のつながっていない義理の弟を性的に誘惑するような多感な女。一方、弟のほうは、そうした誘惑に乗らず、自分の義務に忠実な男である。かれはそんな忠実さを発揮して、自分に課せられた任務に従事する。その任務とは、撤退命令に抵抗するユダヤ人入植者たちを、イスラエル本土に送り届けることだ。

そうした表向きの筋書きに平行して、主人公たちのプライベートな活動が描かれるという体裁になっている。

映画の最大の見所は撤退作戦に抵抗するユダヤ人入植者を、軍が排除する場面だ。入植者たちが抵抗する理屈は、ここは自分たちの故郷だというものだ。その理屈には大した根拠はないが、当人たちは真面目にそう考えている。それは、日本の北方領土を占領して住み着いたロシア人の理屈と同じようなものだろう。かれらロシア人も、北方領土は自分たちにとっての故郷だから、出て行くいわれはないと主張する。

そんなわけで、ユダヤ人入植者たちの主張を聞いていると、「強盗にも三分の理」という諺を思い出す。アモス・ギタイはユダヤ人だが、イスラエルのユダヤ人たちの行動振りには批判的である。そうした姿勢がこの映画にもよく現われているということだろう。

なお、映画の冒頭で、ユダヤ人の男とパレスチナ人の女が列車の中で仲良くなり、キスするシーンが出て来るので、そこから物語が始まるのかと思わせられるが、このシーンはそこで終わってしまう。ただ、ユダヤ人の男が後続する場面の弟だということが、このシーンを後続の部分と結びつけている



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