壺齋散人の 映画探検
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サタジット・レイの映画「大樹のうた」:インド人の夫婦関係



サタジット・レイは、インド映画を世界的に認知させた巨匠である。インド映画といえば、ボリウッド映画ともよばれ、商業主義的な娯楽作品が大量生産されていることで知られるが、サタジット・レイは、芸術的な香気あふれる作品を作り続けたことで、世界の映画界の巨匠とも呼ばれる。代表作としては、オプー三部作と呼ばれる「大地のうた」、「大河のうた」、「大樹のうた」がある。ベンガル出身の作家ボンドバッタエの小説「大地のうた」を原作としている。この小説は作者の自伝的な作品といわれる。

「大樹のうた」は、原作の主人公オプーの結婚生活を描いたもの。三部作の一つではあるが、独立した作品としても見ることが出来る。大学生のオプーが、学費が払えず退学し、ルンペンに近い暮らしをしているところに、友人にさそわれて田舎の村をたずねる。そこでは友人の姪の結婚式が行われる手配だったのだが、新婿というのが精神障害者で、結婚は破談となってしまう。インドでは破断した結婚は新嫁の家に禍をもたらすと信じられており、切羽詰った新嫁の家族は、オプーを新婿に迎える。

かくしてオプーと新妻との結婚生活が始まる。その暮らしぶりを見ていると、インドでは表向きは夫が支配的な立場にあるが、本音の部分では妻の力が強いというふうに伝わってくる。日本のかつての夫婦関係によく似ていると思わせられるところもある。

妻は早速妊娠するのだが、お産のために実家に帰っている間に、早産がこじれて死んでしまう。妻に死なれたオプーは、妻の実家に寄り付かず、生まれた息子に会おうともしない。かくて五年がたったところで、オプーは友人に促されて子どもに会いに行く。オプーは、その子のために愛する妻が死んだのだと思い込んでおり、子への愛を感じることがなかったのだが、いざ会って触れ合いを感じるにいたって、親としての愛に目覚める、というような筋書きの映画である。

見所は、インド人の男女の触れ合い方であろう。いかにもインドらしさを思わせられるのは、妻がひよわく振る舞うところだ。それにたいして夫のほうは、力強い保護者として振る舞う。表向きは、妻は夫に絶対服従だが、家の中では妻が夫をリードする。そんなつつましい夫婦関係が伝わってくる。


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