壺齋散人の 映画探検
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トラン・アン・ユン「ノルウェイの森」:村上春樹の小説を映画化



トラン・アン・ユンはベトナム人だが、その彼が村上春樹の有名な小説「ノルウェーの森」を日本映画として作った。村上と五年がかりで交渉して映画化権を得たプロデューサーが、ベトナム人のトラン・アン・ユンにメガホンをゆだねた形だ。どういう事情からかはわからない。村上自身はその映画に満足の意を示したということらしいから、彼の起用は成功したということになる。興業的にも成功した。

細部の省略を除けば、原作の内容に忠実だといえる。だが、全体的な雰囲気が暗すぎるという印象は否めない。尚子の陰気な雰囲気は原作も同様だが、緑のほうは、原作ではあっけらかんといえるほど明るいのに、映画のなかの緑は暗すぎる。原作では、緑はかなり卑猥なことも平気で言う能天気な女というイメージが強いのだが、映画の中の緑にはそういうところはない。

原作では、尚子が男女の結びつきに消極的なのは、同性愛のためだと、なんとなく伝わってくるように控えめに描かれていたが、映画ではそれを正面に出した。レズビアンでありながら男を愛してしまったことに罪の意識を感じ、それで自殺したという具合に、正面から取り上げている。しかも首吊りのシーンまで披露しているのは旺盛なサービス精神といえよう。

サービス精神という点では、主人公のセックスシーンがふんだんに盛り込まれている。尚子との一回限りのセックスのほかに、いきずりの若い女とのセックスとか、緑のパートナー、レイコとのセックスなどだ。レズビアンのレイコがなぜ主人公とセックスしたのか、わからないところがあるが、それは原作でもあるところなので、村上に意図を聞くほかはあるまい。

日本人俳優を起用して、日本を舞台に撮影したにかかわらず、どうも日本映画らしくないところが感じられる。俳優のしゃべり方がなんとなくぎごちないし、風景も日本離れしている。聞くところによると、すべて日本国内で撮影したというから、トラン・アン・ユンはベトナムを思わせるような風景(濃厚な自然)を選んで撮影したということか。

なお、ビートルズの曲「ノルウェーの森」がタイミングよく挿入されている。村上自身は、ビートルズの歌詞を小説に盛り込むことをめぐって著作権をめぐるトラブルがあったというから、ビートルズ側がこの映画への曲の使用を承諾したのは、異例の計らいということらしい。金の力だろう。



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