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陳凱歌(チェン・カイコー)の映画:作品の解説と批評


陳凱歌(チェン・カイコー)は、中国映画史におけるいわゆる第五世代の先陣をきった作家である。第五世代というのは、改革開放後に中国映画界を席巻した若い世代のことをさしていう。それまで世界の映画市場において、無視に近い扱いを受けてきた中国の映画人が、はじめて世界の注目を浴びるようになった。陳凱歌は、その新しい世代の代表者としての役割を果たした。

陳凱歌は、文革時代の紅衛兵世代に属し、政治的な雰囲気の中で育った。下放された経験もある。文革終了後、北京電影学院で映画作りを学び、1984年に「黄色い大地」で監督デビューした。これは荒廃した山村地帯における庶民の厳しい生活ぶりを描いた作品で、張芸謀(チャン・イーモウ)も撮影スタッフとして協力している。

1993年の「さらば、わが愛/覇王別姫 」は、京劇の世界に取材した作品で、中国人らしい美意識が感じられると評判になり、カンヌでパルム・ドールをとった。つづく「花の影」は、辛亥革命前後の時代における伝統的支配層の腐敗した生活を描いたもので、マイナスの面で中国らしさを感じさせた作品だった。

「北京バイオリン」は一転して、現代の中国社会が舞台である。生活にゆとりの出てきた中国の中流層が師弟に一流の教育を施そうとするところを描く。そういう傾向は、中国に限らず、経済的に台頭する国家に共通した現象だろう。ただ、日本の場合なら、学校教育の延長で家庭教師をつけたりするところを、中国人は芸術など特定の分野で師弟を一流になるよう金をかけるという違いはある。この映画には、陳凱歌自身が教師役として出演している。

「花の生涯」は、京劇の名優といわれた梅蘭芳の生涯を描く。貧しい少年時代から身をおこし、京劇の大スターにのぼりつめていく過程を描く。それに日中戦争をからませてある。日本軍による慰問公演の要請に対して、精いっぱいの反抗を試みる。そこに梅蘭芳の中国人としての誇りを見るといったような内容だ。

2017年の「空海」は、日中合作映画で、中国に修行のため渡った空海の若き日々を描いている。とはいっても、史実に基いたものではなく、勝手な想像による荒唐無稽な内容の作品である。そこに染谷将太や阿部寛など日本人俳優も出ている。 染谷は流暢な中国語をしゃべっているが、かれなりに特訓した成果だという。

「黄色い大地」から「空海」まで、陳凱歌(チェン・カイコー)は三十年以上にわたって中国映画を牽引してきた。同世代の張芸謀に比較すると、いまひとつ芸術性に劣ると言わざるを得ないが、中国映画を世界レベルに引きあげた功績は認めねばなるまい。


陳凱歌「黄色い大地(黄土地)」:陳凱歌

陳凱歌「さらば、わが愛/覇王別姫」:京劇の世界を描く


陳凱歌「花の影」:陳凱歌

陳凱歌「北京ヴァイオリン」:陳凱歌

陳凱歌「花の生涯 梅蘭芳」:伝説の京劇俳優を描

陳凱歌「空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎」:中国滞在中の空海



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