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王全安「トゥヤーの結婚」:モンゴル人の家族関係



王全安の2006年の映画「トゥヤーの結婚(图雅的婚事)」は、中国映画ではあるが、モンゴル人の家族関係を描いたものである。内蒙古も中国の一部であるから、そこに住んでいるモンゴル人も、少数民族として、中国人には違いないが、その生活様式は全く違っている。だから、普通の中国映画とは、かなり異なった印象を与える。

一家の働き手を失った家族が、解体の危機に瀕する様子を描く。主人公のトゥヤーは、夫が事故で働けなくなったあとも、夫と二人の子を抱えて、自力で家族の生活を支えていたのだが、自分自身が事故で働けなくなると、家族を支えることができない。そこで親族から、夫と離婚することを勧められる。夫の親族が、夫の面倒を見るから、妻はその夫と離婚して、子どもともども養ってくれる男と再婚しろと勧められるのだ。その勧めをトゥヤーはあやしまない。

そんな彼女のもとに沢山の男たちが、家族をともなって求婚に現れる。モンゴルでは、おそらく女は希少なのだろう。女のいない男たちは、必死になってトゥヤーに求婚するのである。そういう光景は、日本人の小生には、理解を超えた眺めだが、モンゴルではごく当たり前だというふうに伝わって来る。その理解を超えたことがらには、トゥヤーが前夫と一緒に暮らすことを結婚の条件にするということがある。トゥヤーは、前夫を含めた家族全体で嫁入りできることを結婚の条件にしているのである。彼女は、前夫を心から愛しているのだ。

求婚者のなかには、中学校時代の同級生という男もいて、夫を介護施設に入れてやるからと言って、結婚をせまる。ところがそのやり方が権力的なので、彼女は反発する。セックスをせまる男に対して、やりたかったら女をその気にさせろと言うのだ。そういう言い方は、日本の女でもするのではないか。

近隣に住んでいる冴えない男が、じつはトゥヤーを愛している。その男には妻がいるので、もしその妻と別れて自由の身になったら結婚してもよいとトゥヤーは答える。その場合、前夫と一緒に暮らすのが条件だ。その条件を隣人の男は受け入れる。かくしてめでたく結婚が成立し、トゥヤーは前夫ともども、新しい男に嫁入りする次第となるのである。映画は、新しいカップルを祝う結婚式の様子を映し出しながら終わる。前夫も新たなカップルの成立を祝い、子どもは子供で、父親が二人になったことを受け入れる。なんとも不思議な思いをさせられる映画である。その不思議さが、ヨーロッパの映画人を魅了したと見えて、この映画はベルリンで金熊賞をとった。



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