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侯孝賢「冬冬の夏休み」:台湾人の日本へのこだわり



1984年の台湾映画「冬冬の夏休み」は、侯孝賢監督自身の少年時代の回想を描いた作品だそうだ。侯孝賢は、どういうわけかは知らぬが、日本贔屓と見え、「非情城市」では、大陸からやってきた蒋介石より、追放された日本人のほうがずっとましだといった描き方をしていた。この「冬冬の夏休み」でも、そうした日本へのこだわりが垣間見える。舞台となった屋敷は日本風の建物だし、映画の冒頭とラストシーンでは、日本の唱歌が流される。冒頭の卒業式のシーンでは「仰げば尊し」が歌われるのだし、ラストシーンでは「兎おいしふるさと」のメロディが流されるのだ。これらは日本統治時代の名残ということだろうか。

小学校を卒業した冬冬は、夏休みの間、幼い妹と一緒に、銅羅で医院を開業している祖父(母方)のもとへ預けられる。台湾では、九月が学年の始まりなのだ。だから冬冬は、中学校に入学するまでの夏の間を、親元を離れて暮らすのだ。母親は重病で入院しており、父親はその介護のために、子どもたちの面倒を見られないのだ。

銅羅は、台北の南部に隣接するところだが、田園に囲まれた長閑な土地である。そこで兄妹二人は、さっそく地元の子どもたちと仲良くなる。その子どもたちとの交流を中心に、様々な出来事を経験しながら、すこしづつ成長してゆくプロセスが、情緒豊かに描かれるのである。兄冬冬の最大の経験は、母親の危篤に直面して、命の意味を考えたことであったし、妹チンチンの最大の経験は、線路に横ざまに倒れて死にそうになったところを、智慧遅れの娘にたすけられ、その娘を通して、生きることの意味を、幼いなりに考えたことだ。

このほかさまざまな出来事が起きる。知恵遅れの娘が強姦で妊娠させられ、その子を流産することとか、叔父が若い娘と結婚しようとして父親から反対されることとか、その叔父の仲間の二人組が強盗を働く現場を冬冬たちが目撃するところなのである。そうしたさまざまな出来事が、時間の流れに乗って、次々と展開する。短い作品のわりに、けっこ中身の詰まった映画だ。それでも煩わしさは感じさせない。

ひとつ面白く感じたのは、台湾の若い女の行儀の悪さだ。叔父の恋人であるこの女は、叔父に付き添って冬冬と同じ電車に乗ったのだが、鶏肉を食い散らかして、骨の残骸を床に放り投げて平気である。中国人が、食い物のたべかすを自分のテーブルに散らかし放題にする習慣は、小生も見たことがあるが、電車の床まで食い散らかすのは実にみっともない眺めである。やめたほうがよい。

そんな疵はあるにしても、全体としては、よくできた映画といえる。



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