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好男好女:侯孝賢の台湾近現代史シリーズ



侯孝賢(ホウ・シャオシェン)は、台湾近現代史にテーマをとった作品をいくつか作っている。1989年の「非情城市」はその代表作で、先の大戦で敗戦国となった日本が台湾から去ったあとに、大陸からやってきた蒋介石の一派が、現地の反抗分子を弾圧するところを描いていた。1995年の「好男好女」は、戦前戦後に生きた二組の台湾人男女の生き方がテーマである。二組のうちの一組は、戦前には抗日戦への参加を望んで大陸にわたり、戦後は台湾に戻って来るも、反国民党の運動を弾圧されて、不幸な一生を終えるという筋書きである。

もう一組は、戦後の台湾に生きた男女。そのカップルのうち男のほうは、何者かによって銃殺されるのだが、それがどうも白色テロらしいことが伝わってくるように描かれている。もっとも明示的には描かれていないので、よくよく注意していないと、この男がなぜ殺されたのか事情が呑み込めない。事情がよく呑み込めないのは、主人公である二組の男女が、どういうつながりを持っていて、何がこの二組を結びつけているのか、ということだ。映画は一応、戦後派のカップルの女性のほうが、恋人の死後女優となって、戦前派のカップルの女性を演じるという形で、この二組を関連付けているが、その関連には外形的なつながり以上のものはない。ただ、戦前派の女が、失った恋人を懐かしむ心が、戦前派の女性の失った夫を懐かしむ心に通じ合うといったところに、わずかにこの二組の精神的なつながりを指摘できる程度だ。

聞くところによれば、監督の侯孝賢は、もともと戦前派の二人の生き方を描くつもりだったそうだ。夫婦である二人は、他の三人の仲間と共に、抗日戦に参加する目的で大陸に渡る。そこで、おそらく共産党軍と思われる部隊に直接志願するのだが、その意志を信じてもらえず、監禁されてしまう。戦後許されて台湾に戻ってきた夫婦は、台湾民主化の運動をする。それが国民党ににらまれて弾圧され、ついには夫が銃殺される。そういう、不幸な男女の生きざまを正面から描いていたら、それなりにまとまりのある映画になったと思うのだが、侯孝賢はそれに、もっと若い男女をからませた。その男女の生き方というのは、戦前派の夫婦のように、意識的なものではない。すくなくとも画面からは、彼らの政治的信条は伝わってこず、彼らの関係はあくまでも、肉体を通じた結びつきに過ぎない。そんなかれらを、戦前派の政治的な意識の高いカップルと、どういうわけで重ね合わせたのか、俄にはわかりかねるところがある。

戦前派の女性蒋碧玉と戦後派の女性梁静を、伊能静が一人二役で演じている。伊能は日本風の名前だが、台湾で生まれ育った台湾人女優だそうだ。彼女が蒋碧玉を演じる時には画面はモノクロにかわり、梁静を演じる時にはカラーになる。だから、画面の色彩を通じて、時間の感覚をつかむということになるのだが、その時間の処理がかなり自在なので、見ているほうは、なかなか現実感覚がつかめない。なにしろ、二組のカップルがそれぞれ違った時間を生きるばかりでなく、それぞれが生きる時間もリニアに流れるわけではなく、前後左右に入り組んでいるといった具合なのだ。そんなことから、物語の展開を追っていくのに、かなりのエネルギーを強いられる。

尚、画面構成については、「非情城市」同様に、暗い色彩とロングショット主体の静的で安定した画面作りが特徴だ。




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