壺齋散人の 映画探検
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山の郵便配達:中国映画の世界



霍建起(フォ・ジェンチイ)の1999年の映画「山の郵便配達(那山、那人、那狗)」は、中国映画としては比較的早く日本人に親しまれた。小生も神田の岩波ホールまで見に行ったものだ。当時の中国は、改革開放路線がようやく成果を上げ始め、沿岸部地帯は豊かになりつつあったが、内陸部特に山村地帯は、大昔のままだった。この映画には、そうした大昔の中国の、貧困ではあるが、素朴な人間性を感じさせてくれたものだ。

テーマは、山岳地帯において手紙の集配に従事する人だ。つまり郵便配達員の生き方を描いたものである。これまで長い間郵便配達をしてきた男が、高齢を理由に職を辞し、その仕事を息子にゆずる。父親は、仕事の引継ぎの意味で、息子とともに郵便配達の現場に赴く。そのさいに、一頭の犬を連れていく。二泊三日のその旅の中で、父親は仕事の手順だとか、ルート沿いの人々との交流について息子に示す。息子はそれを引き継いで立派な郵便配達になるであろう、というような内容の映画である。

郵便配達は苛酷な仕事だが、誇りある仕事だと父親はいう。郵便事業は国の仕事だし、郵便配達員は、公務に従事する職業として、工場の工員などより格が上だ、というのがその理由である。それに郵便配達をやっていると、さまざまな人びとと交流できる。若い女性とも知り合いになれる。じっさい父親は、郵便配達の仕事で知り合った山地の女性と結婚したのだった。それが息子の母親なのである。

映画は、山の中を犬をつれて進んでいく親子の姿を追いながら、過去の追想という形で、父親の青年時代のこととか、山村の人びとの暮らしぶりとかが紹介される。同時進行の話としても、トン族という少数民族の祭りの踊が紹介されたりする。中国映画には、少数民族をモチーフに取り上げたものが多くあるが、この映画もその一つといえる。

原題に「あの山、あの人、あの犬」とあるように、犬が大きな役割を果たしている。この犬は、主人に終始付き添って、仕事の手助けをしたり、孤独をなぐさめる伴侶としての役割も果たすのだ。なお、この映画の中の父親は、まだ四十一歳ということになっている。四十一歳といえば、日本では中堅の働き手だ。ところが中国では、引退すべき年齢とされており、じっさい見かけ上も老人のように見えるのだ。苛酷な労働が、老化を早めるのだろう。


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