壺齋散人の 映画探検
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中国映画「カラスと雀」:国共内戦末期の中国




1949年の中国映画「カラスと雀(乌鸦与麻雀)」は、国共内戦末期における上海を舞台にして、横暴な支配者に苦しめられる中国庶民を描いた作品。横暴な支配者とは、国民党一派であり、その腐敗した政治とか公私混同によって、中国の庶民は塗炭の苦しみを舐めさせられているといったメッセージが強く伝わってくる映画である。公開されたのは、毛沢東が新国家建設を宣言した1949年10月1日より一か月あとのことであるが、制作は10月以前からなされていたらしい。それでも、国民党を否定的に描いているのは、共産党の勝利がゆるぎないものと思われていたからだろう。

国民党に深いつながりをもつ資本家が、権力を乱用して不動産を横領し、そこに住んでいる人々に立ち退きをせまる。それに対して、住民たちが一致妥結して立ち向かうというような内容である。その戦いは外的な条件によって決着がつく。蒋介石の政権が崩壊し、国民党一派が台湾に逃げることになって、不動産の不正所有者も夜逃げするはめになったので、住民は引き続きそこに住むことができるようになったのだ。映画は、1949年の大晦日に、喜びのなかで新年を迎える住民たちを映しながら終わる。

建国以前に制作が始まったということもあり、共産党政権への過度の思い入れはない。だが、国民党に対してはかなり厳しい見方をしている。国民党の腐敗ぶりは、当時の中国庶民にとって耐えがたいものと映っており、そうした中国庶民の権力への怨嗟が共産党を勝利させたといえるので、これは自然なことといえよう。それほど国民党は人気がなかったのだ。国民党は、大陸から逃げて台湾へ行っても、現地の人々から憎まれた。なにしろ、反友好的な台湾人を数万人規模で虐殺しているから、憎まれるのは無理もない。

そういうわけで、この映画は、国民党の腐敗をテーマにした作品といえる。だから、国共内戦が終わらないうちに上映することにはかなりなリスクがともなったであろう。なおタイトルにある「麻雀」は、雀ではなく文字通り麻雀のことだと思う、映画の中で、賃貸人(教師)の妻が地主たちとマージャンをするシーンが出てくる。そのシーンが、不動産の不正所有者と賃貸人との関係を象徴するものとして扱われている。カラス(乌鸦)のほうは、国民党の腹黒さをあらわしているのだろう。



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