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ホロコースト アドルフ・ヒトラーの洗礼:コスタ・ガヴラス



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コスタ・ガヴラスの2002年の映画「ホロコースト アドルフ・ヒトラーの洗礼(原題はAmen)」は、仏独米の協同制作として作られ、言語には英語が用いられている。ガヴラスがフランスを拠点として活動しており、映画の舞台が主にドイツであり、金の出どころがアメリカだということか。テーマは、日本語の題があらわしているとおり、ナチスによるホロコーストだ。

ナチスのホロコーストといえば、ユダヤ人を対象としたものととらえられがちだが、ナチスはユダヤ人のほかにも、障害者や共産主義者も殺戮した。この映画では、知的な障害者たちが、非生産的な人間として毒殺される様子を写すところから始まっている。

映画には、ナチスのホロコーストに強烈な反感を抱く二人の人間が出て来て、かれらがなんとかしてナチスの蛮行を世界中に向って糾弾しようとする過程を描く。一人はほかならぬナチスの親衛隊将校ゲルシュタインで、毒薬の開発にあたっている人間。かれは自分の開発した毒薬チクロンで、大勢のユダヤ人が殺される現場を目撃し、なんとかしてそれをやめさせたいと思って、献身する。もう一人は、カトリック教会の書記リカルドで、かれはゲルシュタインからナチスの蛮行を聞かされ、やはりそれをやめさせようと奔走する。二人の戦術は、事実をローマ教皇に知ってもらい、教皇を通じて世界中に訴えてもらおうということだった。

しかしかれらの努力は実らず、教皇を通じて世界中に訴えることはできなかった。ナチスの蛮行を止めたのは、戦争に連合国が勝ったことだ。しかし、その連合国に、ゲルシュタインは自分の知っているかぎりの事実を報告して自殺する。一方リカルドのほうは強制収容所に潜んでいたところを発見されて抹殺される。こんな不合理な筋書きになっているのは、映画が事実を重視しているからというふうに伝わって来る。この映画はどうも、事実をもとに作られているようなのだ。

露骨な暴力的シーンは出てこないが、まだ幼い面影の少女が、大勢の障碍児とともに駆り集められ、裸にさせられたうえでガス室に送られてゆくところを映しだすシーンなどは、ナチスの暴力を如実に感じさせるように作られている。

ナチスは、自分たちの蛮行を、寄生虫の退治だといっている。ゲルシュタインは、その寄生虫を退治するつもりで毒ガスの開発に従事していたのだったが、実は人間を殺すことに用いられていたと知り、愕然とするのである。寄生虫のなかには、ユダヤ人のほかに反ナチス分子も含まれているわけだ。そうしたナチスへのドイツ庶民のかかわり方は、この映画では深くは追及されてはいない。積極的にナチスを応援する人と並んで、かかわりになることを恐れるといった人々が出て来るだけである。




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