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ヤセミン・サムデレリ「おじいちゃんの里帰り」:ドイツに移住したトルコ人家族



2013年公開のドイツ映画「おじいちゃんの里帰り(Almanya - Willkommen in Deutschland)」は、ドイツに移住したトルコ人家族の生活ぶりを描いた作品だ。監督のヤセミン・サムデレリはトルコ系のドイツ人であり、自らの家族の体験をもとにこの映画を作ったという。一家の長である祖父が、1960年代にドイツにやってくる。ゲスト労働者としてだ。その頃のドイツは、日本同様高度成長の只中だったが、深刻な労働力不足に悩まされ、多くの外国人労働者を招いた。ゲスト労働者とはそうした外国人労働者をさした言葉だ。ゲスト労働者の中で一番多かったのがトルコ人。そのトルコ人として、ドイツ社会で生きてきた祖父と、その家族の物語である。

祖父は、最初は妻子をトルコに残して単身ドイツにやってくるが、そのうち家族をドイツに連れていき、一緒に暮らす。ドイツでは一応成功し、それなりにまともな暮らしができるようになる。かくて大家族に拡大した家族に向って、トルコに家を買ったから、家族全員で出かけようと呼びかける。家族は、当初はそれぞれの事情を抱えて気乗り薄だったが、結局全員でトルコに向かう。大型のバンに乘って。その旅のさなかに、一番小さな孫に向って、年長の孫が家族の歴史を語って聞かせるのだ。

家族の歴史は、基本的には明るいもので、祖父を始め、その子どもたちや孫たちもドイツ社会に溶け込んでいる。したがってドイツは、この家族にとって肯定的に受けとめられている。そこが、同じトルコ系のファティ・アキンの映画とは異なるところだ。アキンの映画は、トルコ人にとってのドイツ社会の生きづらさとか、トルコ人同士の足の引っ張り合いといったものが描かれているが、サムデレリのこの映画には、そういった暗さは殆どない。ただひとつ、ドイツ人の老婆がトルコ人の子沢山を皮肉る場面が出て来るが、そんなに深刻なシーンには見えない。

この映画を見ていると、ドイツ社会が外国人に対して比較的寛容だという印象を受ける。祖父を始め家族のメンバーが迫害されるような場面は出てこないし、かえって学校などではドイツ人の子供と良好な関係が結べているような印象を受ける。孫などは、ドイツ社会に溶け込むあまり、トルコ語が話せなくなっているくらいだ。そんなかれらは、ドイツ人としての国籍を与えられ、トルコに帰れば外国人扱いなのだ。

それでもトルコで祖父が死ぬと、妻である祖母は故郷の土に埋めてやることにこだわるのだ。死んだ祖父は移民を代表するかたちで、メルケル首相主催の行事に呼ばれていた。その祖父の代理として、一番小さな孫が、祖父がする筈であった演説をするのである。

映画の中でドイツは「アルマンヤ」と呼ばれている。これはトルコ語なのだろうが、フランス語でもドイツを「アルマーニュ」というから、ドイツの呼称の一つだったのだろう。ドイツ人自身は「ドイツ(Deutsch)」と言っている。

なお、エンディングのところで、「労働力を呼び寄せたら、来たのは人間だった」というメッセージが出て来る。これは、これから外国人労働力を呼ぼうとしている日本が心して聞くべき言葉だ。



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