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バグダッド・カフェ:パーシー・アドロン



パーシー・アドロンの1987年の映画「バグダッド・カフェ(Bagdad Café)」は、ドイツ映画ではあるが、舞台はアメリカであり、登場人物たちも英語を話している。こういうタイプの映画は、ヴィム・ヴェンダースの「ミリオンドラー・ホテル」以下、ドイツでは珍しくはないが、それにしてもドイツ人の観客には、字幕でもつけて見せるのであろうか。クリント・イーストウッドは、「硫黄島からの手紙」では、日本人には日本語を話させていたので、その部分については英語の字幕をつけたはずだ。

バイエルンからアメリカ観光に来たドイツ人女性ヤスミン(ジャスミン)が、ラスヴェガスに車で向かう途中、亭主と喧嘩して車から降り、単身砂漠の中を歩いているうちに、とあるガソリンスタンド兼モーテル(バグダッド・カフェ)にたどり着く。行くあてのないらしい彼女は、そこにとりあえず部屋をとる。ホテルを経営しているのは気むつかしい黒人女性で、この女経営者も亭主と夫婦げんかをして、亭主が家出したばかりだった。そんなわけで余計に機嫌が悪くなり、ヤスミンにまであたりちらす始末。

だがヤスミンは芯からのお人よしで、周りの空気を和らげる能力がある。その能力を発揮して、次第に周囲の人々に愛されるようになるのだ。このモーテルにはかわった人々が住んでいて、そのなかの画家を自称する男は、ヤスミンの肖像画を描いたりする。彼女はひどく肥満しているのだが、その肥満した肉体を、かわいらしく描く能力を持っているのだ。

ヤスミンはマジックの教科書を持参していて、折に触れてはそれでマジックを試している。そのうち、マジックを周りの人に披露すると、拍手喝さいを浴び、その噂を聞いた人々が集まって来て、バグダッド・カフェは大繁盛。気むつかしい女経営者も大満足である。

だが、地元の保安官がやって来て、彼女に国外退去を求める。ビザの期間が切れており、しかも違法労働はけしからぬというのだ。そんなわけで彼女はいったんその場を退出する。

しかししばらくして彼女は戻って来る。カフェは再び大繁盛。しかしいつまでもそうしてはいられない。ビザには期限があり、労働許可も得ていないからだ。そこで画家が提案をする。自分と結婚すればアメリカの市民となり、好きなだけここにいられるというのだ。その提案をヤスミンは受け入れる。そうすればいつまでもバグダッド・カフェで、楽しく暮らせるのだ。

そういう具合にこの映画は、安ホテルを舞台にした人間喜劇といった風情が、ルノワールや黒澤の「どん底」を想起させるが、「どん底」のようなある種の悲壮感はない。とことん楽天的である。その点では、ドイツ人よりもアメリカ人向けと言えよう。




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