壺齋散人の 映画探検 |
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2023年公開の映画「PERFECT DAYS」は、ドイツ人の映画作家ヴィム・ヴェンダースが日本に招かれて作った作品。招いたのは日本財団のプロジェクト「The Tokyo Toilet」である。当該団体は渋谷区の公共トイレの刷新を進めていたが、その活動をPRするための映画を企画し、それにヴェンダースを招いた。当初は短編のドキュメンタリーを考えていたらしいが、ヴェンダースの希望もあって、長編劇映画に変更した。 テーマは、公共トイレ(かつては公衆便所といった)の清掃に従事する初老の男の生き方である。役所広司演じるその初老の男が、毎日毎日公共トイレの清掃にあけくれる。実に丁寧な仕事ぶりで、こういう人がいるおかげで、日本の都市は清潔さを保っている。そういう清潔さへのこだわりは、この男に限らず、日本人の民族性のようなものだというメッセージが伝わってくる。そう言われると日本人として悪い気はしないが、解釈の仕様によっては、日本人には便所掃除が似合っていると受けとれなくもない。 男は下町のスカイツリーの近くのアパートに住み、そこから車で都心に通い、おそらく渋谷区内と思われる公共トイレを清掃してまわる。朝未明に起き、日中はトイレを巡回し、仕事が終わると浅草の安い飲み屋で焼酎を飲み、ときには金を奮発してバー風の店に出かける。その店の女将を石川さゆりが演じていて、粋な声を聴かせてくれる。 毎日が同じことの繰り返しだが、それでも結構いろいろなことが起きる。相棒の若者の恋を手伝ったり、姪が家出して転がり込んできたり、トイレにあった置手紙のようなものがきっかけで文通まがいのことをしたり、女将のもと夫という男と胸襟を開き合ったり、といった具合だ。 男は寡黙だが、必要な場合には口をきく。男はさる公園のなかの大木が気に入っていて、アナログカメラで撮影しては、近所で現像を頼んでいる。これもまた近所にある古本屋では、気に入った本を買って読む。最近買った本は、幸田文のエッセー「木」だ。幸田文にそんなエッセーがあるとは知らなかった。 相棒の若者が突然やめて、男はしばらくの間、二人分の仕事をするはめになる。清掃業務は区から請負会社に委託されているので、会社に文句を言うが、なかなかまともに受け合ってもらえない。もっとも最後には穴を埋めてくれる。その会社こそ、ヴェンダースに声をかけたThe Tokyo Toiletなのである。役所演じる男は、その会社のロゴを印刷した制服を着ている。 最後に、三浦友和演じる石川さゆりの元夫と男が胸襟を開き合う場面がある。二人は影を重ね合わせながら、二つの影が重なると、一つの時より濃くなるかどうか確認しているのである。なお、相棒の若造を演じているのが、柄本祐に似ているので、ネットで調べたら、祐の弟時生だそうだ。 |
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