壺齋散人の 映画探検 |
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1993年のドイツ映画「スターリングラード(Stalingrad)」は、独ソ戦最大の山場スターリングラードの攻防を、ドイツ側の視点から描いた作品。この攻防をソ連が制したことによって、独ソ戦はソ連の勝利に向かって進み、やがてナチスドイツの無条件降伏をもたらす。この攻防は、ドイツ側が85万人、ソ連側が120万人の戦死者を出し、60万人いた住民が1万人以下になるなど、凄惨を窮めたものであった。この映画は、その攻防戦に投入されたある部隊の戦いぶりを描く。 スターリングラードの攻防戦が始まるのは1942年6月末だが、この映画の中の部隊は同年9月に戦線に送られる。それまで彼らはイタリアの海岸で骨抜きをしていた。もともとはアフリカの戦線で勇猛に戦ったことで、英雄集団と呼ばれていた。そんな彼らは、ロシア人など一ひねりだとタカをくくっていたが、現実はそうではなかった。ソ連軍は予想以上に強かったし、地元の住民も油断がならなかった。 つまりドイツ軍はかなりな反撃に直面していたのだ。そういう状況の中で、ソ連軍と熾烈な戦いを繰り広げる一方、地元民を虐殺したりする。何しろドイツは、独ソ戦において、2000万人以上のロシア人を殺している。その殺し方は常軌を逸したもので、男女子供の区別なく虐殺したという。この映画の中のドイツ軍も、子供を含めた地元民を一斉に銃殺している。その残虐さに比肩しうるのは、イスラエル国家によるパレスチナ人へのジェノサイドくらいであろう。 映画は、小隊長の若者を中心に展開する。その小隊長はある程度の教養があり、またヒューマンな感情も持っているので、自軍とはいえ人道に反するようなことは受け入れがたい。すると上官からお前はソ連びいきかとなじられる。しかし彼のような人間は例外で、ドイツ兵は無慈悲に敵を攻撃するのである。盟約した休戦も平気にやぶって相手を殺す。人間としてとても考えられないことを、この映画の中のドイツ兵はやる。 要するにこの映画は、ドイツ側の落ち度をやり玉にあげるような作りになっているのである。スターリングラード攻防線はじめ独ソ戦の様々な戦線でドイツ側が人道に反する残虐行為を働いたことは否めないので、映画といえども、そんなドイツを持ち上げるわけにはいかなかったのであろう。 だがドイツ側を否定的に描いたために、この映画はドイツ人には人気がなかった。特にエンディングの場面では、勇敢なロシア女性をドイツ兵数人で輪姦したあげく殺したことになっている。そういう描き方が、あまりにも非ドイツ的だと受け取られたようである。 |
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