壺齋散人の 映画探検
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ルネ・クレール「イタリア麦の帽子」:馬が帽子を食う話



1927年のサイレント映画「イタリア麦の帽子(Un chapeau de paille d'Italie)」は、ルネ・クレールのサイレント映画の代表作たるのみならず、サイレント映画の傑作と言ってよい。モンタージュ手法をはじめ、映画の基礎的なテクニックをほぼ網羅しており、映画史上にも重要な位置を占める。

いわゆる活弁のようなものを前提しているのか、字幕による説明はほとんどないに等しく、したがって筋の展開に多少わかりにくいところがあるが、至って単純な話なので、そう深刻な障害にはならない。タイトルにあるとおり、イタリア製の麦わら帽子をめぐるドタバタ喜劇である。

結婚式を控えた男が、誤って他人の麦わら帽子を台無しにしてしまう。馬車で疾走中、なにかのはずみで、ある女のかぶっていた麦藁帽子を飛ばしてしまい、その帽子を馬が食ってしまったのだ。その帽子は女にとっては非常に重要なものだった。というのも、その帽子をかぶって外出し、間男をしていたのだ。帽子がなくては家に戻れない。間男がばれてしまうから。そう考えた女は、間男に同じ帽子を手に入れるよう求める。そこで間男は、結婚式を控えた男の家に押し入り、帽子を戻せと叫ぶのだ。

かくして、麦藁帽子をめぐるドタバタ喜劇が展開される。映画の最後には、女は全く同じような麦藁帽子を手に入れることができて、夫の疑問をかわすことができた、というような他愛ない話である。その他愛ない話が、さまざまなドタバタ騒ぎを招きよせるというわけである。

ドタバタ喜劇は、チャップリンを抱えたハリウッド映画の得意とするところであったが、クレールはその向こうを張って、派手なドタバタ劇を展開してみせる。クレールは、トーキー時代になると、「パリ祭」のような叙情たっぷりな映画も作るようになるが、面目はやはり喜劇にあって、「ル・ミリオン」とか「自由を我らに」といった喜劇の傑作を手がけている。なお、この「麦の帽子」に出てくる耳の遠い老人のとぼけた役柄は、「自由を」における演説する工場長の原型といってよい。

とにかく、声が出ず、また説明らしいものが殆どないにかかわらず、腹の底から笑えるサイレント映画である。



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