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ダルデンヌ兄弟「ある子供」:子供の心のまま大人になってしまったような人間



子供の心のまま大人になってしまったような人間が、どの時代のどの国にもいるものだ。いまでもそういう人間が大国の政治指導者になっているのは珍しい眺めではない。ダルデンヌ兄弟の2005年の映画「ある子供(L'Enfant)」は、そんな人間を描いた作品だ。

主人公は、二十歳の青年ブリュノだ。彼の十八歳の恋人ソニアが赤ん坊を生むところから映画は始まる。ソニアが自宅に戻ると、赤の他人がセックスをしている。ブリュノから一週間契約で部屋を借りたというのだ。驚いたソニアはブリュノを探しまわる。やっと見つけたブリュノに赤ん坊を見せると、ブリュノはうれしそうな顔をしない。それでも赤ん坊用の乳母車を買ったりはする。金は盗品を売って作った。かれはローティーンの少年たちに盗みを働かせ、その上前をはねていたのである。

赤ん坊の出生届を二人でしたあと、暮らしをたてるために、職を求めて職安に行く。窓口には大勢の人間が長い列を作っている。順番を待っている間に、ブリュノは赤ん坊を乳母車に乗せてあたりを散歩する。そしてどういうつもりか、赤ん坊を養子に出せば金になるという言葉を思い出し、ブローカーに連絡をとって、赤ん坊を売ることにする。その代金として、結構な金を得ることができたブリュノは、それをソニアに報告すると、ソニアは驚愕して卒倒してしまうのだ。

驚いたブリュノは、ソニアを病院に運び、赤ん坊を取り戻そうとする。なんとか取り戻すことはできたが、ソニアは許してくれない。一緒に住んでいた部屋から追い出されてしまうのだ。また、ソニアが赤ん坊の捜索届を出したために、ブリュノは警察の取り調べを受ける。アリバイの口裏合わせを自分の母親に頼んだりもする。母親は情夫と一緒に暮らしているのだった。

ブローカーは、商売で儲けそこなった金を賠償しろという。五千ユーロも払えというのだ。その金を作るために、ブリュノは一人の少年と組んでひったくりをやる。ひったくりは成功したように思われたが、しつこく追跡されて、ついに少年のほうがつかまってしまう。そこでブリュノは、かれらしい良心にさいなまれて、警察に自首するのだ。その結果ブリュノは刑務所に入れられる。そんなブリュノをソニアが訪ねてくる。そこで二人は、何とか和解することができたようなのだ。二人が感極まって泣きあうところを写しながら、映画は終るのである。

こんなわけで、この映画は、大人になりそこなった人間のあまりに子供っぽい生き方を描いている。題名の「ある子供」とは、生まれたばかりの赤ん坊ではなく、この大人になりそこなった青年のことを言うらしいのである。



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