壺齋散人の 映画探検
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幸福:アニェス・ヴァルダ




アニェス・ヴァルダの映画「幸福(Le Bonheur)」をはじめて小生が見たのは学生時代のことだ。大学内で自主上映されていたこの映画を、親しい友人に誘われて見に行ったのだが、見ての印象は、フランス人というのは。道徳的に問題のある人間たちだということだった。男は平気で不倫をして、それを妻に隠さないし、女も妻子持ちの男と気軽にセックスする。不倫に絶望した妻が、二人の小さな子を残して入水自殺する、というのもちょっとショッキングだった。日本の女は、妻子持ちの男には決して手を出さないものだ、またたとえ亭主が浮気をしたとして、それくらいで自殺する女などいない、と思ったことを覚えている。

フランス人にとっては、どこにでもあるような平凡な話なのだろう。妻を深く愛していながら、他の女とのアドヴェンチャーを楽しむ、というのは別に責められることではないのだ。だがフランスでは、女が浮気をして亭主に恥をかかせるというのが一般的なのではないか。そのことは、ラブレー以来のフランスの文化的伝統と言ってもよいくらいだ。なにしろフランス文化においては、寝取られ亭主というのは、もっとも普遍的なテーマの一つなのだ。ところがこの映画では、亭主が浮気をして妻を悲しませる。まったく逆のパターンがモチーフになっている。そこがこの映画のユニークなところだ。実際この映画は、フランス人たちに一定の反響を巻き起こしたらしいのだが、その反響は、フランスの文化的伝統に反した亭主の浮気が巻き起こしたと言ってよい。

この映画に出て来る男女は、しょっちゅうセックスを楽しんでいる。セックスこそが生きることそのものだといわんばかりである。セックスは人間性に根差したものだから、その衝動を抑圧することは人間的なやり方だとは言えない。したいときには、時と所を選ばずすることだ。そんな開き直りのようなものがこの映画からは伝わって来る。じっさいフランス人は屋外でセックスするのが好きらしい。主人公の夫婦も日中森の中のセックスを楽しむのだ。もっともその直後に、妻は入水自殺するのであるが。

妻に死なれた男は、浮気相手と再婚して、彼女に二人の子供の面倒を見させる。後妻に納まった女は、子どもたちの世話をしているうちに、次第に世帯じみて来る。人生なんてそんなものさ、というようなメッセージらしきものは発しながら映画は終るのである。




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