壺齋散人の 映画探検
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ルイス・ブニュエルの映画:作品の解説と批評


ルイス・ブニュエル(Luis Buñuel)はスペイン人だが、フランスの映画作家としても知られている。サルバドール・ダリと共同のデビュー作「アンダルシアの犬」はフランスで作ったものだし、晩年の一連の作品もフランスで作ったものが多い。そんなわけでフランス映画の、それも巨匠として遇されているわけだ。しかし、スペインで生まれたわけだし、一緒に映画を作ったダリはスペインの芸術家として認められており、また、ブニュエル自身戦後一時期だがスペインで映画を作り、その前にはメキシコでスペイン語の映画を作っている。だからここでは一応、スペイン映画の監督に分類しておきたい。

デビュー作の「アンダルシアの犬」における超現実的なイメージがあまりにも強烈だったために、シュルレアリズムのレッテルを、ダリとともに頂戴することとなった。じっさい、次作の「黄金時代」も、ダリとの共同作品であり、シュル・レアルな感じの強い作品である。

サルバドール・ダリはその後、超現実的な画風を深め、シュルレアリズムの絵画におけるチャンピオンになっていくわけだが、ルイス・ブニュエルはかならずしも、シュルレアリズムにはこだわらなかった。彼は一時期のスランプの時期を過ぎて、戦後はメキシコで映画を作るようになったが、その時代の作品はどれもリアリスティックな作風のものだ。その時代の代表作は「忘れられた人々」だが、これはリアリスティックな作風で、しかもかなり社会的な視線を感じさせるものである。これだけを孤立させて見ると、イタリアのネオ・レアリズモを想起させる。また、「ナサリン」は、メキシコの庶民の宗教感情をテーマにした作品で、これもまたリアリスティックな作風である。

戦後、フランスに戻る前に、一時スペインで映画を作った。「ビリディアナ」と「皆殺しの天使」はその代表的なもので、ルイス・ブニュエルの最高傑作との呼び声が高い。特に「皆殺しの天使」は不条理な現実を描いたもので、後にフランスで開花する不条理映画の先駆けとなるものである。そんなわけで、ルイス・ブニュエルは、シュル・レアルな作風からスタートし、晩年を迎えるにあたって、不条理映画へと転化していったわけである。

フランスに戻ってから当初は、「小間使いの日記」とか「昼顔」といった映画を、当時のフランス映画を代表する女優をフィーチャーしながら作った。これらの映画には、背徳的な雰囲気が感じられたのだが、そうした要素はますます強くなっていって、最晩年のルイス・ブニュエルの映画は、背徳の世界にのめりこんでいったかのような観を呈した。ブニュエルは当初、フランス人の背徳性を描いていたのだったが、それは背徳なことを本性としているフランス人にとって自然なことともいえるので、とくにそれを怪しむ動きはなかった。しかし、その後(フランスで作った映画ではあるが))スペインを舞台にして背徳的な人間たちを描くようになると、ブニュエルはフランス人の背徳性に怒っているのではなく、現代を生きるブルジョワたちの背徳性に怒っているのではないかとの推測がなされるようになった。

たしかに、「ブルジョワジーの密かな愉しみ」とか、「自由の幻想」とか、「欲望の曖昧な対象」とかいった最晩年の作品群は、ブルジョワたちの糜爛したとでもいえるような背徳性をテーマにしている。そういう映画を見ると、人間という生き物はここまで堕落できるのかという感慨を、ため息まじりに抱かされるところだ。そのため息が自分自身に返ってくるとき、人は自分自身の背徳性に気づかされることだろう。ここではそんなルイス・ブニュエルの作品を取り上げて、鑑賞しながら適宜解説・批評を加えたい。


ルイス・ブニュエル「アンダルシアの犬」シュル・リアリズムの映画

ルイス・ブニュエル「黄金時代」:欲情した男

ルイス・ブニュエル「忘れられた人々」:メキシコ・シティの下層社会

ルイス・ブニュエル「ナサリン」:放浪するカトリック神父

ルイス・ブニュエル「皆殺しの天使」:不条理映画の傑作

ルイス・ブニュエル「小間使いの日記」:ジャンヌ・モローの怪しい魅力

ルイス・ブニュエル「昼顔」:フランス人の不道徳な生き方

ルイス・ブニュエル「銀河」:フランス人の信仰の欺瞞性

ルイス・ブニュエル「哀しみのトリスターナ」:フランス風親子丼

ルイス・ブニュエル「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」:七つの大罪のオンパレード

ルイス・ブニュエル「自由の幻想」:フランス人の欺瞞性

ルイス・ブニュエル「欲望のあいまいな対象」:呪われた無信仰者



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