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アラン・レネ「風にそよぐ草」:頭のおかしな老人と頭のいかれた中年女



アラン・レネといえば、1955年に発表したドキュメンタリー映画「夜と霧」の印象が大きい。初期にはそうしたドキュメンタリー風の短編作品を手がけていたのだったが、そのうち長編劇映画も作るようになり、結構息の長い映画生活を送った。2009年に作った「風にそよぐ草(Les Herbes Folle)」は、かれが87歳の時の作品である。

頭のおかしな老人と、浪費癖があって頭がいかれかけた中年女との奇妙な触れ合いを描いたものだ。中年女は独身の歯科医師で、買い物が大好きだ。彼女は贔屓の店で高級靴を買い、町を歩いているところを、何者かにバッグを奪われる。バッグの中には色々なものが入っていたのだが、そのうちの財布が見つかる。一人の白髪の老人がショッピングセンターの地下駐車場で拾い上げたのだ。

老人はその財布を警察に届ける。持ち主の女からお礼の電話がある。どういうわけか老人は、その女に興味を示し、電話を入れたり手紙を送ったりする。女のほうは、当初は相手にせず、またあまりのしつこさに辟易して警察に相談したりもするのだが、それが老人を怒らせたりする。

老人が女につきまとうのは、時間をもてあましているからだ。かれは失業中で、庭の芝を刈ったり壁にペンキを塗ったりするほかは、することがないのだ。それで暇つぶしに女にちょっかいを出しているというふうに伝わってくる。

一方女のほうは、歯科医師をやっているので、老人ほどヒマではないが、どういうわけか、老人からのアタックに反応する気持に、だんだんとなってくる。あげくは、映画館の前で老人を待ち伏せしたり、自分が趣味で運転しているセスナに老人を乗せたりする。それが彼女には気晴らしなのだ。とはいっても、その気晴らしが恋に発展することはない。あくまでもかれらは気晴らしとして互いを必要とする関係なのである。

こういうわけで、いい年をしたフランス人男女の気張らし的な男女関係を描いたものだ。筋書きは平板だが、男女のキャラクターが非凡だ。頭のおかしな男は日本にもいるし、また頭のいかれた女もいるが、その頭のおかしな男と頭のいかれた女が仲良く暮らすという構図は、日本ではなかなか成り立たないのではないか。ところが、フランスでは成り立つらしい。フランス人は、人間関係そのものを享受する傾向が強いので、人間関係にかかわることにおいては、とりわけ男女関係においては、なんでもありといった具合らしい。



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