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ルネ・フェレ「夕映えの道」:初老の女性と高齢の女性との触れ合い



ルネ・フェレの2001年の映画「夕映えの道(Rue du Retrait)」は、初老の女性と高齢の女性との触れ合いをテーマにした作品である。会社を経営する初老の女性が、ふとしたことで出会った高齢の女性が気がかりになって、なにかと世話をするうちに、彼女に対して特別な感情を抱くようになる。一方高齢女性のほうは、不幸な過去のせいで強い人間不信に陥っており、自分に対してやさしく接してくれる相手になかなか心を開かないのだが、やがて相手の誠意に心を開くという内容である。高齢女性が心を開いたのは、死を目前にしてのことだった。彼女は末期癌を患っているのである。

こんな具合に、人間同士の心の触れ合いを描いた作品であり、大した筋書きはない。ひたすら二人の人間の心の触れ合いがきめ細かく表現される。だがそれが見るものの心に響く。人が人を愛するとはどういうことか、人は他人に対して無償の愛をささげることができるのか、といったある意味根源的なことがらを考えさせる映画である。

初老の女性が高齢の女性にかかわるようになったのは、同情からではない。人間としての義務感のようなものに促されたということになっている。高齢の女性のほうも、面倒を見てもらえることについて、卑屈になるわけではない。かえって迷惑がったりする。それでも完全に自立できているわけではないので、面倒を見てもらえば助かる。そんなドライな関係から始まり、やがてそれがウェットなものへと変貌していく。それを促すのは、かれらの人間としての感情だ、というふうに伝わってくる。

フランス人は、世界的に見て最も個人主義が徹底しており、他人に対してウェットな感情は持たないと思われているようだが、この映画を見る限り、人間として他の人間を求めてやまない、いわば普通の人間なのだと感じさせられる。

原題は「ルトレ通り」という意味で、特別な意味が込められているわけではない。それを「夕映えの道」という邦題にしたのは、映画の内容にマッチさせたということなのだろう。夕映えは一日の終わりの輝きであるが、この映画は人生の終わりの輝きを見つめている、というようなメッセージが伝わってくるのである。



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