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エリック・ロメール「木と市長と文化会館」 
フランスの地方政治における党派対立



エリック・ロメールの1993年の映画「木と市長と文化会館/または七つの偶然(L'Arbre, le maire et la médiathèque ou les sept hasards)」は、フランスの地方政治における党派対立をテーマにした作品。フランス中西部ヴァンデ県のある市が舞台である。その市長が、地域活性化事業の目玉として、文化会館の建設を企画する。それに対して反対が起こる。反対には党派的な対立も絡んでいる、といった内容だ。それを時系列的に描くのではなく、七つのエピソードを継ぎ合わせるという形をとる。したがってオムニバス形式をとっているわけだ。オムニバス形式は、前作「ミレットとミラベル」でも採用していた。

若い市長が文化会館の建設に乗り出す。環境保護派がこれに反対する。それに環境派のジャーナリストが加担して、市長のプランは破綻する。その経緯を、七つのエピソードを通じてオムニバス的に展開する。第一のエピソードでは、学校の授業風景が紹介され、そのなかで教師のジュリアンが条件法について解説するのだが、その条件法のカギになる言葉 si が、この映画の中のそれぞれのエピソードにつながるというわけである。

見どころは、地方政治にも見られる党派対立だろう。市長は左翼を自認しているが、やっていることは右翼的である。つまり自分の政治的な勢力を、市民に媚びることで保とうとするところが右翼的だと評される。市長自身は社会党に所属するが、その市長からみて、緑の党などの環境派は、教条的に映る。一方環境派のほうは、市長を反動的だとののしる。当時のフランス政治は、ミッテラン指導下の社会党が権力を握っていた。その社会党への幻滅がこの映画の背景にはあるかもしれない。

市長の計画はとん挫したが、そのかわり別の形での文化的な政策が推進される。市長のもっている広大な緑地を公園として一般開放しようというのだ。それについては、教師の娘と市長の娘とが活躍する。彼女らがスクラムを組んで、市長を心変わりさせるのだ。




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