壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館美術批評東京を描く水彩画動物写真西洋哲学 プロフィール掲示板


ヴィットリオ・デ・シーカ「昨日・今日・明日」:三つの挿話からなるオムニバス



ヴィットリオ・デ・シーカの1963年の映画「昨日・今日・明日(Ieri, Oggi, Domani)」は、デ・シーカ単独のオムニバス映画である。三つの挿話からなっており、いずれもマルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンが主演のカップルを演じている。挿話同士には相互のつながりはない。まったく関係のない話が並んでいるに過ぎない。

第一話は「アデリーナ」と題して、ソフィア・ローレンとマストロヤンニが夫婦として出てくる。妻がつまらぬ罪を犯して収監される身になったが、出産後半年は収監されることがないと知って一安心。だがそのままでは近いうちに収監されてしまうので、そうならないように、次々と子供を産む。子どもを生み続けて居れば、その間は収監されることがないからだ。だが、無際限に生み続けるわけにはいかない。じっさい、この夫婦は夫のほうが先に音を上げるのだ。次々と生れてきた子供が七人になり、その世話をしなければならない夫は、ほとほと疲れ果ててしまったのだ。だが、夫が頑張ってくれなければ、子どもも生まれず、やがて収監されてしまう。それを恐れた妻は、他の男のタネを貰おうとするのだが、さすがに愛する夫の手前そういうわけにもいかず、諦めて収監されることとする。その際に下の子を二人連れていく。イタリアでは子連れで刑務所に入ることがめずらしくないようなのだ。だが、夫の努力もあって、妻は恩赦を受けることができる。かれらの家族愛に社会が感動したからだ。

第二話「アンナ」は、ソフィア・ローレン演じるブルジョワの妻が、マストロヤンニをドライブに誘って誘惑しようというもの。ローレンは欲求不満が高まっているようで、どこかまわずマストロヤンニを挑発するのだが、内気なマストロヤンニは大胆になれない。そんなマスロヤンニに愛想をつかしたローレンは、マストロヤンニを田舎の寂しい場所に置き去りにしてしまうのだ。

第三話「マーラ」では、ソフィア・ローレンがコールガールとして出てくる。マストロヤンニは彼女の客である。ローレンの住んでいるアパートの隣に、一人の神学生が里帰りしてきていて、その神学生にローレンは思慕される。神学生の祖母は、彼女をバイタといって侮辱するので、始めは憤りを覚えた彼女だが、神学生が恋煩いで狂気に陥ったと聞くや、祖母の願いに応えて、神学生を救ってやる。というわけで、この挿話の中のローレンは、聖女のように慈悲深い女として描かれているのである。

そんなわけで、話の内容は多分に興味本位で、深みのある作品とはいえないが、軽妙な味わいはある。なにしろ、マストロヤンニもローレンも映画史上有数の性格俳優である。その二人が火花を散らすような演技を見せてくれるのであるから、観客としては十分満足感を味わえるというわけである。



HOMEイタリア映画デ・シーカ次へ








作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2021
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである