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ヴィットリオ・デ・シーカ「ああ結婚」:イタリア人の結婚観



ヴィットリオ・デ・シーカの1964年の映画「ああ結婚(Matrimonio all'italiana)」は、原題に「イタリア式結婚」とあるように、イタリア人の結婚観をテーマにした作品。娼婦上がりの女が、内縁の境遇を脱して、いかに晴れて正妻の地位を獲得するか、その涙ぐましい努力が描かれている。

イタリアは、カトリックの国であり、結婚は男女を生涯にわたって束縛する。そんな束縛を嫌った男が、女をずっと内縁の状態においたあげく、別に若い女を作って結婚しようとする。怒った内縁の女は、策略をめぐらして、その男との正式の結婚を勝ち取るというような内容である。

自分勝手な男をマルチェロ・マストロヤンニが、女をソフィア・ローレンが演じている。映画はソフィア・ローランが危篤の病床につくことから始まる。その病床でマストロヤンニは、司祭の立ち合いでローレンと結婚するのだ。かれには別に結婚相手がいるのだが、どうせローレンはすぐ死ぬのだから、形上の結婚をしてやってもよいだろうとタカをくくったのだ。ところが、ローレンは死ぬどころか、元気いっぱい。マストロヤンニは、法律の専門家に頼んで、ローレンの結婚詐欺を立証しようとする。そんなマストロヤンニに、ローレンは次の策略をめぐらす。自分には三人の子供がいて、そのうちの一人はあなたの子だと宣言するのだ。驚いたマストロヤンニは、自分の子供を遺産相続者として引取ろうとするが、ローレンは応じない。三人とも引取れというのだ。そこでマストロヤンニは、どういうわけか、心境を大変化させ、ローレンを三人の子供付きで妻に迎えるのだ。

かくて、ローレンの深謀遠慮はめでたく成就するというわけである。その話のうちの大部分は、彼ら二人の回想という形をとる。二人が初めて出会ったのは、空襲警報が鳴り渡る中でのこと、そのときのローレンはまだ17歳だった。数年後に再会した二人は、すぐに共同生活を始める。だが正式の夫婦としてではない。マストロヤンニは、ローレンを自宅のメイドとして扱い続けるのだ。そんな境遇にローレンはあきらめを感じていたが、マストロヤンニが他に若い女を作ったことに怒り、復讐してやろうと考える。その復讐に取り掛かるきっかけが、危篤を装うということだったのである。

こんな具合にこの映画は、結婚そのものというよりは、結婚に至るプロセスにおけるイタリア女の意地を描いたということができる。イタリア人は、日本人同様男尊女卑の傾向が強いといわれるが、女はただ男に忍従しているわけではない。折あらば男を手玉にとってやろうと構えている。そんなふうに、この映画の中のソフィア・ローレンは感じさせる。



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