壺齋散人の 映画探検
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タヴィアーニ兄弟「父 パードレ・パドローネ」:イタリアの家族関係



タヴィアーニ兄弟の1977年の映画「父 パードレ・パドローネ(Padre Padrone)」は、サルデーニャ島の家族関係を描いたものだ。イタリアの家族関係は、ヴィスコンティの映画などからは、父権が強力だとは思われないのだが、この映画に描かれたサルデーニャ島の家族関係は、父親が絶対的な権力を振るっている。父親はその権力を振り回して、小学校に入ったばかりの息子を退学させて、羊飼いの手伝いをさせる。息子は20歳になるまで、一切教育を受けることがなく、文盲となる。しかし何とか努力して文字を覚え、しかも大学で言語学を専攻し、有名な言語学者になる、というような内容の話だ。実話をもとにした話だという。

イタリア語でパードレとは父親のこと、パドローネも父親とか主人とかいう意味だ。それを二つ連ねて、絶対的な父権をイメージするということらしい。この映画の中の父親は、長男を酷使するばかりか、ほかの四人の子どもたちにも抑圧的だ。妻はそんな夫を批判することはない。唯唯諾諾と従っている。

サルデーニャの若者は、みな父親に頭を抑えられているので、自立する為には外国に行かねばならない。じっさいこの映画に出てくる若者たちも、みなドイツを目指すのだ。だが主人公の息子カヴィーノは、父親の承諾のサインがもらえずに行くことができない。そのかわり軍隊に入り、そこで新たなチャンスをつかむ。軍隊では教育の機会が得られるのだ。

軍隊が教育のチャンスを与えるという話は、あまり聞いたことがない。おそらく徴兵をすみやかに進めるための手段なのだろう。日本の徴兵制度は、残された家族のための福祉制度によって支えられていたが(ドイツも同様)、イタリアの場合には徴兵される当人に対して教育機会などのインセンティヴを導入したということか。

映画は、主人公が厳しい自然のなかで過酷な少年時代を過ごすところから、青年時代における無学への後悔、そして軍隊に入ったことで勉学の意欲に芽生えるところを順治描いていく。若い頃は抑圧的で、暴力ばかり振るっていた父親も、長男に対しては次第に友好的になっていく。そんなサルデーニャ島の家族のあり方が、情緒たっぷりに描かれている映画だ。



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