壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館美術批評東京を描く水彩画動物写真西洋哲学 プロフィール掲示板



アリーチェ・ロルバケル「夏をゆく人々」:イタリア人家族の生き方



アリーチェ・ロルバケルの2014年の映画「夏をゆく人々(Le meraviglie)」は、イタリア人家族の生き方を描いた作品。舞台はエトルリア人がかつて住んでいた所というから、おそらくローマの北方、トスカーナあたりだと思う。エトルリアはイタリア中部の、それもティレニア海沿いにあったと言われるからだ。そこで養蜂を営んでいる一家の暮らしぶりが映画のテーマだ。

たいしたストーリーはない。一家が一人のドイツ人少年を里親としてあずかること、一家の長女ジェルソミーナの発案で、農業特産物コンテストに応募することくらいだ。ドイツ人少年はマルティンといって、盗みをしたかどで少年刑務所に入れられていたところ、更正プログラムに従ってこの一家にあずけられたのだ。少年はイタリア語を話せず、暗い雰囲気に包まれているが、一家の娘たちとはすぐに仲良くなる。一家にはジェルソミーナを筆頭に四人の娘がいる。ジェルソミーナは父親の助手となって、養蜂の作業に従事している。彼女は父親っ子らしく、いつも父親と一緒なのだ。年のころは十四五歳くらいだろう。

一家は鉢を養うかたわら、羊を飼っていたりする。ある時は父親が娘たちへのプレゼントだといってラクダを買ってくる。そんな能天気な父親を母親は苦々しく思っている。養蜂の経営はうまく行ってないし、衛生当局からは衛生管理のための投資を強く求められている。だから養蜂などやめて、もっと気楽に暮したいと思っている。そんな思いが交錯して、時には夫婦喧嘩になることもある。

そんな家の事情がわかっているジェルソミーナは、コンクールで優勝したら経営がよくなるのではないかと考えて、応募するのだ。父親はそれを叱り飛ばす。見せ物になるのが嫌だというのだ。合理的な考え方が出来ないのである。

結局父親は娘の熱意に折れて、コンクールに参加することに同意する。コンクールは、海岸線から数キロ離れた孤島で行われた。一家はそのコンクールに優勝できなかった。そのうえマルティンが行方をくらます。一騒ぎあったのち、ジェルソミーナが単身島にわたり、マルティンを見つける。ふたりは互いに強い絆を感じあうのだ。

こんな具合に、この映画はジェルソミーナという少女の視点から、イタリアの農村の暮らしぶりを描きながら、少女の成長の過程を追うというような形になっている。一種の教養映画だ。イタリア人家族の触れ合いが、情緒豊かに描かれているのがよい。なお、原題は「驚き」というような意味だが、それはジェルソミーナが蜜蜂を自分の顔に平気ではわせたりと、人の意表を突くような行為をさしているのだろう。



HOMEイタリア映画










作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2021
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである