壺齋散人の 映画探検
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ロベルト・ロッセリーニの映画「ストロンボリ」:女性難民の困窮



ロベルト・ロッセリーニの1950年の映画「ストロンボリ(Stromboli,terra di Dio)」は、第二次世界大戦で難民となったリトゥアニア女性の困窮をテーマにした作品。イングリッド・バーグマン演じるこの女性カーリンは、戦争で夫を失い、イタリアに流れてきたが、移民申請を受け入れて貰えない。だが、イタリア人の男と結婚すれば、カトリックの権威を受けて自動的にイタリア人と認められることを知り、たいして愛してもいない男と結婚する。その男は、ストロンボリという離島の出身で、妻を連れてその島に帰っていく。ところがその島は、始終火山の爆発に見舞われており、また、殺伐な気質の住民からなる野蛮な場所であった。そんなところで暮すなんて、とてもできないと思ったカーリンは、なんとか島を脱出して、本土で暮したいと思い続ける、というような内容の作品だ。

このカーリンと同じような境遇の女性は、戦後のヨーロッパ社会には多数存在したと思われるから、この映画はそうした女性たちの境遇に光をあてたものといえなくもない。ロッセリーニの政治性がそういう形で反映されているともいえる。一方、カーリンと結婚したアントニオという男は、カーリンよりもずっと年下で、なかなか自立できない。嫁を貰うことなど望むべくもない。カーリンのような境遇にある女だから、自分のものにできたわけだ。そんなわけで、かれらの結婚は、たがいに打算に基いてのことだった。打算から生まれた結婚は長続きしない。カーリンのほうから愛想づかしをして、逃げ去ってしまうのだ。もっとも、火山が活発な離島では簡単に脱出できない。カーリンは着のみ着のまま家を出たのはいいが、自分の身の始末をつけるすべを持たないのだ。妊娠した彼女は、大きくなった腹を抱えながら、火山の噴火口のあたりをさまようのである。

そんなわけで、かなり気の滅入るような雰囲気の映画である。なお、この映画は、イングリッド・バーグマンにとって最初のロッセリーニ作品である。以後彼女は、合計六本のロッセリーニ映画に出たほか、ロッセリーニと結婚もしている。ロッセリーニは家族持ちであったから、彼女は略奪婚だといって非難された。

舞台となったストロンボリ島は、シチリアの北に浮かんでいる離島であり、全島が火山灰に覆われて土地は痩せている。唯一の産業は漁業で、アントニオもマグロ漁船の船員として雇われる。映画の中では、マグロ漁のいさましい光景も出てくる。大きなマグロが面白いようにつれる。地中海はやせた海で、魚が少ないと聞いていたが、シチリア周辺ではマグロがとれるらしい。なにか特別な事情があるのだろう。



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