壺齋散人の 映画探検
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ロベルト・ロッセリーニの映画「不安」:女が女を脅迫する



ロベルト・ロッセリーニの1954年の映画「不安」は、イングリッド・バーグマンを主役でフィーチャーした作品では五作目で最後のもの(ほかにオムニバス映画「われら女性」がある)。この映画を作って間もなく、これはどうでもよいことであるが、二人は離婚し、バーグマンはハリウッドに戻った。

どういうわけか、英語とドイツ語のバージョンを作り、イタリア向けにはサブタイトルで済ませた。そのためか、イタリアでは人気が出なかった。映画のテーマがイタリア人向けではなかったこともある。

ヒッチコック流のミステリー・サスペンス映画である。とはいっても、ミステリーの要素はほとんどない。ストーリーは、不倫しているところを抑えられた主婦が女に脅迫されるというものだが、そこにはほとんど秘密めいたところはない。観客は最初から、主婦がなぜ脅迫されているかその理由がわかっているし、最後になって主婦の夫が妻の不倫を罰するために女と共謀していたことがあかされても、全く不自然には思わない。それまでのストーリー展開の延長として当然予想される事態だからだ。

不自然なのは、不倫が発覚し、しかもそれを自分の夫が罰するために、他の女を使って脅迫させていたということに、妻がショックを受けた挙句、自殺しようとまで考えることだ。この映画の中の主人公は、どうやらドイツ系の人間ということになっているので、一概には言えないが、イタリアでは主婦が不倫をするのは朝飯前だと言われている。しかも彼女らは、たとえ不倫がばれても悪びれしない。だいたいは笑ってごまかす。この映画の中のバーグマンのように、己の不誠実を恥じて自殺しようなどと思う女は、まずイタリアではありえない。

というわけで、この映画は、イタリア的なものからははるかに縁遠い内容の映画だ。イタリアで人気が上がらなかったのも無理はない。



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