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ルードヴィヒ:ルキノ・ヴィスコンティ



ルキノ・ヴィスコンティの1972年の映画「ルードヴィヒ」は、数奇な行動で知られるバイエルン王ルードヴィヒの、即位から死までのほぼ生涯を描いたものである。ほとんどドラマ性はないと言ってよい。一人の王の生涯を淡々と描きだしている。そのせいかやたらに長い。オリジナルテープは四時間もあった。それを劇場公開用に三時間に短縮したのだが、それでも長い。小生はDVD用に復元されたオリジナル版を見たのだが、そんなに長くは感じなかった。そこはやはり映画作りの名人ヴィスコンティのこと。観客を飽きさせないように作ってある。

いわば伝記映画といってよいから、ルードヴィヒ二世についてある程度の知識がないと退屈になるかもしれない。少なくともルードヴィヒ二世という人物像に興味を抱くことが必要だろう。この人物について小生は、若い頃に評伝を読んで、変わってはいるが、魅力的な君主だというような印象を受けたことがある。その際の印象で、いまでも記憶に残っているのは、ワグナーを世に出してやったこととか、華麗な芸術作品でもあるノイ・シュヴァンシュタイン城を作ったとか、最後には湖に入水して謎多き死を遂げたというようなことだったが、この映画でもだいたいそんなエピソードが取り上げられていた。そのほか、従姉でオーストリア皇后エリーザベトへの恋とか、大勢の若者を相手に男色に耽ったというようなことが付け加えられている。

この映画の中のルードヴィヒは、徹底して利己的な人間として描かれている。利己的という意味は、君主としての務めを果たさず、自分の個人的な好悪に夢中になるという意味である。その個人的な趣味として、音楽があったわけで、かれはまだ無名だったワグナーの才能を見出し、彼のために巨額の金をつぎ込んで、世の中に出してやったということになっている。その金はすべて国庫から出ているわけで、つまり王の道楽が公私混同をもたらしたということになっている。この公私混同はおさまらず、ついには国庫を破綻させる危機にまで至り、そのため重臣たちからクーデタをしかけられ、それ原因で自殺を決意するのである。この自殺は、当時大スキャンダルになったようだが、映画はそうしたスキャンダルについては触れず、王が侍医を道連れにして入水自殺したということにしている。クーデタで追いつめられた王は、最初は城の塔の上から飛び降り自殺することを考えるのだが、それでは死体が損壊して醜悪さをさらすことになる、溺死なら死体はいたまないだろう。そういう気持ちから入水自殺したということとにしている。実際その通りだったのだろう。

王の従姉エリーザベトへの愛は、プラトニックなものだったが、この愛の為に王は他の女を愛することが出来ず、一度は婚約したエリーザベトの妹ゾフィーをまともに愛することができなかった。肉体としての女性を受け入れることができないようなのだ。だが男の肉体には魅力を感じるらしく、王の特権を利用して、大勢の若者を集めては、男だけのハーレムを作ったりする。ノイ・シュヴァンシュタイン城は、そのハーレムの拠点であり、城内部の人造池には、多くの白鳥を飼っている。白鳥は王の気持を和らげてくれるようなのだ。道楽で作ったノイ・シュヴァンシュタイン城は、かれが愛した白鳥にちなんだ名であろう。

王は、桁外れの浪費のために政府からは憎まれるが、国民からは敬愛されていることになっている。実際どうだったかはわからない。映画の中でも、そのことは噂話のように触れられるだけで、王が民衆から喝采を浴びるシーンは出てこない。あくまでも王のプライベートな生活が淡々と描かれるばかりである。

影像が実に美しい。バロック絵画を思わせるような陰影に富んだ映像だ。これはヴィスコンティのこだわりだろう。こんなに凝った映像は、長い映画の歴史においても、特筆すべきものではないか。なおこの映画は、ルードヴィヒ王をドイツ人のヘルムート・バーガーが、エリーザベトを同じくドイツ人のロミー・シュナイダが演じているが、言葉はイタリア語である。イタリア人俳優としては、ワグナーの愛人コジマを演じたシルヴァーナ・マンガーノがいる。




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