壺齋散人の 映画探検
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スワロウテイル:岩井俊二



岩井俊二の1996年の映画「スワロウテイル」は、在日外国人の生態を描いた作品。日本のどこかの町に、在日外国人がスラム街のようなものを作って住みこんでいる。かれらは日本社会に溶け込めないで、あくまで異邦人として暮らしている。中には日本生まれで日本語しか話せない者もいるが、それでも彼らは外国人と見られている。そんな彼らは、自分たちのことを円都と呼んでいる。円だけが目的の外国人集団という意味らしい。

大した筋書きはない。贋金作りをめぐって、金の亡者たちが争うと言うのが基本的なプロットだ。幾人かの登場人物を中心にして、話は円環状に展開していく。娼婦のグリコ、彼女に拾われた孤児のアゲハ、グリコの恋人フェイフォン、バラックを拠点にして廃品業を営んでいるラン、グリコの生き別れの兄リャンカイといった連中だ。この連中は中国系だが、ほかにインド系とかアメリカ系の人物も出て来る。

映画は一人の中国人女が死んだところから始まる。その女を誰も知らないという。その娘らしい少女も知らないという。その少女を娼婦のグリコが拾って養う。彼女らは、グリコの恋人フェイフォンともどもランの店青空で仕事を手伝ったりしているが、グリコはそのかたわら自分のアパートの部屋で客をとったりしている。その間少女は、隣のインド人の部屋で待機するのだ。そんなある日、グリコの客になった一人の日本人が少女を強姦しようとする。助けに入ったインド人ボクサーが、その客を窓から突き落とすと、通りがかったトラックにその客はひき殺されてしまうのだ。

フェイフォンらも手伝って客の死体を埋める。すると破れた客の腹からカセットテープが出て来る。そのテープにはシナトラのマイウェーが吹き込まれており、それを参考にしてグリコが歌うと、聞いたものはみなうっとりとした。そこでライブハウスで歌声を披露すると大評判となる。その評判を聞きつけたミュージックディレクターが、彼女をレコードデビューさせると、これが大ヒット。という具合に、グリコの運は上向くのだが、そのうち話は意外な方向に展開する。

カセットテープには、実は贋金作りのコードが仕込まれていた。それに気づいたフェイフォンらは、贋金を作る。するとかれらの周囲には、そのカセットテープの所在を探す悪党どもがあらわれる。主な悪党は、日本のやくざと中国系の犯罪集団流氓だ。日本のやくざをたたきつぶした流氓は、カセットテープを求めて青空に迫って来るのである。

それ以前に少女が胸にアゲハ蝶の刺青をする場面がある。それと同じ刺青をグリコもしていて、彼女はそれにちなんで少女をアゲハと名づけたのだ。アゲハは英語でスワロウテイル・バタフライという。映画のタイトルはそこから来ているわけだ。

またフェイフォンは、贋金を使っているところを警察に逮捕され、拷問を受けたあげくに殺されてしまう。日本の警察は外国人を人間と思っていないというメッセージが伝わって来る場面だ。

ラストシーンは、桃井かおり演じる雑誌記者を巻き込んで、迫りくる流氓が青空の店を襲うシーンだ。絶体絶命の窮地に陥った彼らだが、ランの機転で、襲撃者たちは一人残らず爆殺されてしまうのだ。その場に流氓の首領格のリャンカイは居合せなかった。そのリャンカイに偶然出会ったアゲハは、持っていた例のカセットテープを彼に託するのである。そこで映画は終る。結局何か意味のあることが起ったようには見えない。映画から伝わってくるのは、日本社会に溶け込めない外国人たちのある種悲惨な境遇といったものである。溶け込めない理由については、いろいろあるだろうが、この映画はそこを深くは詮索しないのだ。

主演格のグリコを演じたCHARAは、東南アジア系の風貌であやしげな中国語をしゃべるのだが、本物の日本人だそうだ。そのほかこの映画に出て来る外国系の人間たちも、みな日本人俳優が演じている。




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