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中江裕司「ナビイの恋」:沖縄の離島アグニ島



1999年の映画「ナビイの恋」(中江裕司監督)は、沖縄の人々の暮らしぶりを描いた作品。舞台は沖縄本島の西50キロの海に浮かぶ離島、アグニ島だ。そこに暮らす人々をユーモアたっぷりに描く。沖縄民謡や西洋音楽などをふんだんに取り入れ、なかばミュージカル仕立てになっている。見ても聞いても楽しい映画だ。

ナビイとは、この島に暮らす80歳近い老女。孫のナナコが東京から帰って来て一緒に暮らし始めるところから映画は始まる。ナナコは彼女をオバアと呼び、祖父をオジイと呼ぶ。祖父は陽気な男で、いつも三線を弾き、沖縄の民謡を歌っている。オジイに限らず、この島の人びとはみな、三線を弾き、歌を歌うのが好きなのだ。本家の人びとも、雑貨屋の夫婦も歌ったり、踊ったりが大好きだ。

連絡船の運転をしている若者がナナコに惚れているが、ナナコはかれの求婚を受け入れない。好きだけれど、愛していないというのだ。ナナコにとって、愛するとはセックスしてもいいという意味らしい。そのナナコの本命は、福之助という青年。かれはこの島にフラっとやってきたのだが、オジイと仲良くなったのがきっかけで、一緒に住むようになったのだった。そのかれをナナコは次第に愛するようになるのである。

ナナコは、オバアの様子に変化が表れていることに気づく。妙にそわそわするようになったのだ。近所の子どもたちの応援を得て、オバアを追跡調査したところ、一人の老人と逢引きしているところを発見する。その老人は、オバアが若い頃に恋人だった人で、島から追放され、60年ぶりに戻ってきたのだった。その老人は、追放される時に、オバアにかならず戻ってくると約束していた。その約束を果たすために、わざわざブラジルから戻ってきたというのだ。

その話を聞いたオジイは、オバアの若い頃の恋を思い出す。そしてオバアがその人をいまでも愛していることに理解を示す。オバアは、そんなオジイの気持に甘えるように、昔の恋人と共に、島を去っていくのである。つまりナビイオバアは、年老いてもなお、恋に忠実だというわけである。

以上が映画の基本プロットで、老人の恋を描いたものといえるのであるが、映画の醍醐味は、ミュージカルタッチの軽やかさにある。沖縄民謡の名人といわれるような人々が出演していて、三線を弾きながら民謡を歌ったり、あるいはバイオリンを弾きながら西洋音楽を歌ったりする。圧巻は、雑貨屋のおかみの歌だ。彼女は、カルメンのカバネラを、美声で披露するのである。そのおかみの亭主はアイルランド人で、バイオリンがうまい。その亭主のことをオバアは、アイシテルランド人と呼ぶのだ。

オバアを演じた平良とみは、この映画の翌々年に、NHKの連続ドラマ「ちゅらさん」に出演し、大ブームを巻き起こした。



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