壺齋散人の 映画探検
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坂東玉三郎「天守物語」:泉鏡花の作品を映画化



坂東玉三郎の1995年の映画「天守物語」は、デビュー作の「外科室」同様、泉鏡花の作品を映画化したものだ。「外科室」はわけのわからぬ筋書きだったが、こちらは幽霊女が生きた男と恋に陥るというもので、荒唐無稽の度合いが一段と深まっている。そこが鏡花らしいところで、その鏡花らしさを玉三郎は、歌舞仕立てにして心憎い演出をしている。傑作といってよい。

姫路城の天守閣を舞台に、昔ここで死んだ女の幽霊が、妹の幽霊と遊んだり、城主の家来と恋をしたりという内容。主人公の女の幽霊を玉三郎自身が演じ、妹の幽霊を宮沢りえが演じている。映画の前半は、この二人がてまり遊びに興じるところを中心に展開する。妹は猪苗代から雲に乗ってやって来たということになっている。山伏風の従者とか舌長婆などを従えている。その舌長婆も玉三郎が演じ、土産に持参した男の首を長い舌で舐めるのである。その首というのが、姫路の城主の弟の首なのであった。

天守閣には、女の幽霊のほか大勢の幽霊が住み着いている。その幽霊たちが、さまざまに趣向を変えて観客を喜ばせてくれるというわけだ。大勢の腰元達が出て来るが、そのうちの何人かは歌舞伎の女形らしい。彼女らに限らず、登場人物たちはみな歌舞伎がかった演技で楽しませてくれる。まるで歌舞伎の舞台をそのままスクリーンに映したようである。

後半は、鷹狩から返ってきた城主と幽霊たちとが一戦をまじえたあと、城主の家来の一人が天守閣の最上階に上って来て、そこで幽霊女と愛をとりかわすところが主なテーマ。二人は城に伝わる獅子頭によって結ばれており、獅子頭が目にけがをすると、自分たちの目も見えなくなる。だが、彫師が獅子頭の目を修理すると、彼らの目も見えるようになる。そこで互いの姿が見えるようになった二人は、永遠の愛を誓いあうのである。

こんなわけで、筋書は荒唐無稽だが、映画としてはなかなか面白い。特に歌舞伎仕立てになっているところがよい。一代の女形と呼ばれた玉三郎ならではの洒落た作品である。その玉三郎とやりとりをする宮沢りえもなかなかよい。化粧がさまになっている。



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