壺齋散人の 映画探検
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上海バンスキング:深作欣二



深作欣二の1984年の映画「上海バンスキング」は、日中戦争下の上海を舞台に、ジャズ・ミュージシャンたちの青春群像を描いた作品だ。ミュージカル仕立てになっていて、しかもコミカルタッチで展開されており、視覚と聴覚の二重に楽しめる映画だ。

風間杜夫演じるクラリネット吹きが、松坂慶子演じる妻のマドンナを騙して上海にやってくる。日本では好きなジャズができないので、まだ自由のあった上海で活動しようと思ったのである。妻にはパリにつれていくと騙し、資金は彼女の父親を騙して出させたのであった。上海にはジャズ仲間のバクマツ(宇崎竜童)が待っていて、かれの愛人リリーともども、一緒に活動するようになる。松坂としてはパリに行く夢を絶たれた形だが、夫やその友人のために上海で生きることを受け入れる。友人のバクマツは、リリーとのことで悪党といざこざになり、五本の指を切断されそうになったところを、マドンナが救ってやるのである。

かくして、マドンナもキャバレーで歌い、踊るようになる。松坂の歌や踊りがなかなかよい。ジャズナンバーの他にシャンソンも歌う。「聞かせてよ愛の言葉を」とか「暗い日曜日」といった歌だ。松坂は歌を歌わせてもうまいし、また踊りも見せる。万能のマルチタレントといってよい。

自由を謳歌するかれらだが、やがて日中戦争が本格化すると、上海にも息苦しい空気が充満するようになる。日本軍がこれみよがしに街を闊歩し、時にはジャズクラブにもあらわれて、無粋なことをやる。また、街中では民間人に対してひどいこともする。泣き叫ぶ女性の腹を剣で突いたりといった野蛮なこともやる。こういう場面を挟むのは、深作の心意気からだろう。なにしろ近年では、南京での虐殺を否定する輩が大手を振っているくらいだから、上海でもそれと同じ蛮行がなされたなどということは、とても言える雰囲気ではなくなってきている。

日本の軍人の中に、バクマツの友人という将校がいるおかげで、なにかと有利なこともあったが、やがてその将校もソ満国境に転属になり、バクマツは現地招集される。収入減に窮したことで、マドンナは売春まがいのことまでやるようになり、そんな境遇に絶望した夫はアヘンに溺れるようになる。

やがて戦争が終わり、上海には平和がもどる。しかしバクマツは遺骨となって戻り、風間は廃人になってしまう。マドンナの憂いは深まるばかりだ。そんな具合で、賑やかな雰囲気で始まった映画が、暗いムードを漂わせながら終わるのである。

この映画が作られた1984年は、中国の開放路線に加速がついた時期で、日本人も気楽に中国旅行ができるようになっていた。これより数年前には、とても上海でロケをするなど考えられなかった。そんなわけでこの映画は、それまで閉ざされていた上海のイメージを、日本人に広く紹介する役割を果たしたものだ。

なお、バンスキングとは前借王という意味だそうだ。ジャズ・ミュージシャンの隠語らしい。この映画の中では、風間がマドンナの親から前借したことになっているが、実際にはバクマツのモデルになったミュージシャンが前借王として有名だったという史実があるそうだ。





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